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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

「静岡時間」を見直し、長時間労働を是正。
男女共に能力を発揮することが企業の武器になる。

NECソフト株式会社

NECソフト株式会社


静岡支社 人事総務部

高橋聡(たかはし・さとし)


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NECソフト株式会社

男女同等のその先に求める進化とは

「NECソフト」は、「NEC」グループにおけるITサービス事業の中核を担う会社です。女性社員は、全社員の約2割弱。その比率は、静岡支社でも同じです。私は現在、本社の人事総務部で勤務していますが、2008年7月から、2011年7月まで3年間、静岡支社に配属されました。所属は、総務や人事、経理を統括する「計画部」。転勤以前も本社で労務関係の仕事をしていたので、静岡支社において、新たな職場環境整備の責任者をまかされたのです。
 NECソフトでは以前から、キャリアにおける男女の差はほとんどありませんでした。男性にも女性にも同等の仕事をまかせられ、待遇にも差がないのです。女性社員の採用にあたっては、「男女が同じ土俵で能力を発揮できる会社だが、それだけに女性にも仕事に対する厳しい姿勢が求められる」と説明しています。しかし、男女同等といっても、女性には出産や育児などのライフイベントがありますから、男女が全く同じ勤務体制というわけにはいきません。女性がライフイベントをこなしながら能力を発揮するための、システム作りが必要です。そこでNECソフトでは、1990年に「育児・介護休職制度」を、1992年に「育児・介護短時間勤務制度」を導入するなど、さまざまな支援制度を早くから取り入れてきました。
 そんな中、近年、問題視されてきたのが、ソフトウェア業界ならではの長時間労働です。そこで2007年からは、新たな職場環境の整備に力を入れるようになりました。それが、ワーク・ライフ・バランスの改善や、女性のキャリアアップを促進するための施策です。こうした制度は本社主導で導入され、全国に5つある支社は本社と連動しながら、地域性に合わせた独自の制度を併用する仕組みをとっています。
 私が赴任する前も、静岡支社ではワーク・ライフ・バランスなどへの取り組みを行っていました。しかし一部は形骸化しているものもあり、一層の改善が求められたのです。とはいえ赴任した当初は、静岡の風土や文化、静岡人の気質がよくわからない。1年間ほどは様子を見ていました。やがて、こんなやり方をすれば静岡の社員にも共感してもらえるのではないか、制度を活用してもらえるではないかと思えるようになり、本格的な取り組みに乗り出したのです。

働く悩みを解消し、意欲をうながす「女子会」

 静岡支社で行っている活動の1つにはまず、「女性社員の能力発揮や、活躍を促進するための取り組み」があります。それが、2008年に始まり、年に1回開催されている「女子会」。これは、女性管理職の会「C-Wing」がロールモデルとなって、女性社員の活躍を支援するという本社の取り組みにならって、各支社で実施しているものです。ただしその内容は、静岡支社が独自に企画しています。「女子会」という親しみやすい名称も、静岡支社ならではのもの。最も参加人数が多くて熱心なのが、静岡支社だと聞いています。
 女子会では、本社から部長級や課長級の女性管理職を招き、女性社員の勤務の現状報告や、自身の家庭と仕事を両立させた体験談などを聞いたのち、グループディスカッションなどを行っています。女性社員からは来年も参加したいという意見が多く、とても有意義な会になっているようです。
 たとえばある社員は、「女性にとって辛いのは、将来の結婚や育児などを考えると、キャリアの先が見通せないこと。たとえ昇進したとしても、本当に自分がその職務を果たせるのか自信が持てなかった。しかしこの会に出席し、先輩社員の話を聞くことで、将来のキャリアへのイメージがわいた」と語っていました。
「女子会」は、女性社員の横のつながりを作り、活躍を推進するために、非常に効果があると考えています。静岡支社における、ここ3年間の出産後の職場復帰率はほぼ100%。特に若手の女性社員の中に、自分のキャリアを意欲的に考える人が増えているのを感じますね。

3年間でワーク・ライフ・バランスに大きな成果

 ここ3年間で、最も成果が表れたのは、「ワーク・ライフ・バランスを推進する取り組み」です。赴任して来た時、私が最初に感じたのは、「静岡は時間の流れ方が東京と違う」ということでした。こちらには、「静岡時間」という言葉もあるのだそうですね。穏やかな風土の中で、のんびりとした時を楽しむことは、静岡の大きな魅力の1つです。しかしもう少しメリハリをつけて、仕事を効率的にできれば、もっと残業を減らせるだろうと考えたのです。
 もっとも、私が赴任する前の2007年に、静岡支社では効果的な残業管理システムが開発されていました。桑島政春支社長が「いつ帰る?」をもじって命名した、「It’s かえる君」です。これは、部下が残業の理由と残業時間を、毎日、上司に申告するツールで、いわば残業量の「見える化」。残業量を把握でき、改善につなげることができます。また、これをきっかけに、上司と部下のコミュニケーションがとれるといった利点もあり、今では他部門などでも活用されています。
 2008年からは、本社にならい、「定時退社奨励日パトロール」を行うことにしました。「定時退社奨励日」というのは、夕方5時15分の定時退社を勧める取り組みで、毎週水曜日と給与支給日、賞与支給日がそれにあたります。その中で、パトロールは給与支給日と賞与支給日に実施。パトロール隊は、桑島支社長と私です。タスキをかけて、夕方5時30分頃をめどに、退社をうながしながら社内を回ります。水曜日に定時退社する社員は、以前は4割弱でしたが、今は約6割に上っています。
 2009年には、ワーク・ライフ・バランスの目的を達成した部を表彰する「WLB(ワーク・ライフ・バランス)表彰制度」も始めました。これは全社で行われている制度なのですが、採点方法を見直し、静岡支社独自の指標をつくりました。「定時退社率」や「休暇取得率」、「社内イベント参加率」をポイント換算し、5つある部ごとに算出します。70ポイント以上を表彰するのですが、これがなかなか難しい。初年度は、表彰対象がありませんでした。
 2010年には、静岡支社独自の取り組みとしては、「休暇取得奨励日」を設定。これは有給休暇の取得を目的に、連休の前後や谷間に休暇取得を奨励するというものです。前から心がけていないと仕事の算段がつかないでしょうから、3ヵ月単位で連休のスケジュールを告知しています。同僚に気兼ねせずに休みが取得しやすくなり、少しづつ取得率が増えています。
 こうした取り組みを続けた結果、2010年に「WLB表彰」で表彰される部が現れました。2010年上期に1つの部が、下期には2つの部が受賞しました。表彰が、社員にとっても刺激になっているのですね。ワーク・ライフ・バランス制度の浸透を感じます。

家族もまきこむ社内イベントで人間関係を培う

 ワーク・ライフ・バランス制度で残業が減り、休暇が増えることは、社員にも好評です。40歳代の男性社員は、「以前は忙しくて、家族の顔を見ることも少なかったのですが、今は毎週水曜日に早く帰るので、特に小学3年生の長男が喜んでくれます。まだまだ親の相手が必要な年齢ですから、そんな時期に父親が一緒に過ごせる時間を持てることは幸せですね」と言っていました。まして、家事や育児と仕事を両立している女性社員にとっては、本当にうれしい変化だろうと思います。
「ワーク・ライフ・バランス」とは、仕事をしながら、私生活も充実させられるよう、職場環境を整えることですよね。そこでNECソフトは、「ライフ」の部分の充実もめざし、全社単位や地区単位で社員参加型のイベントを開催しています。
 静岡支社では、独自に4つのイベントを行っています。新入社員が入ったばかりの6月には親睦を兼ねたボーリング大会、8月には、社会貢献活動として富士山五合目での清掃活動。12月にはスポーツ大会を実施します。また3月には、希望者が「駿府マラソン」に参加。58歳の桑島支社長も参加することになり、女性社員が一緒に、駿府公園のお堀で事前練習を行っていましたね。
 特ににぎやかなのは、家族を巻き込んで行われるスポーツ大会です。当日は、社員の子どもたちも数多く参加します。ドッジボールや綱引きなど4種目を用意し、チームごとに点数を競います。静岡おでんを用意したり、大道芸人を呼んだり、とてもアットホームな雰囲気で盛り上がりますね。
 社内イベントの利点は、社員同士、家族間でのコミュニケーションが培われること。中には、同じような年齢の子供同士が、友達になるケースもあります。こうした人間関係の構築により、社内の風通しが良くなり、それが仕事に生きてくる。社内の一層の活性化に役立っていると考えています。

社員の働き方の多様性を受容し活用する

 最後にご紹介するのが、「男女が共に参画できる、職場づくりのための取り組み」。これは、職場の雰囲気を改善し、男女双方の社員の意識改革を促すものです。
 その1つとして、2008年から3月と9月の年2回、「社員意識調査」を行っています。内容は会社生活への満足度や意見を、無記名で聞くもの。回答率は90%です。結果をみると、会社の制度に対しての不満はあまり見られない一方で、ワーク・ライフ・バランスをうまく実践できないという悩みをもつ社員がいるようですね。調査結果は今後の施策に生かしていくと共に、各部の部長に渡し、参考にしてもらっています。
 もう1つの取り組みは、年に1回開催する「管理職向けマネジメント研修」。男女を問わず、すべての社員の能力を引き出すためには、管理者のマネジメント能力が不可欠です。ライフイベントへの配慮が必要な女性など、社員の多様な働き方をいかに受容して、活用できるか。これからは、そうした人材管理手腕、「ダイバーシティマネジメント」が求められます。そこで、本社から幹部社員を招いて過去のマネジメントの経験談を聞くなど、静岡支社独自の企画を立てています。
 私にとってはすでに、「職場での男女共同参画」はごく当たり前のこととして受け止められています。その上でさらに望むのは、女性社員に管理職をめざしてもらうこと。現在、静岡支社には約60人の課長級社員がいますが、女性社員はそのうち2人だけです。この比率をもっと上げていきたいと思いますね。女性も男性も双方が活躍することは企業にとって重要なことであり、わが社の目的でもあります。なぜなら、それが優秀な人材を獲得する武器になるからです。近年は意識の高い女性社員が増え、静岡支社の課長級候補にも女性が含まれているようです。非常に楽しみですね。

地元企業の手本となり、男女共に活躍できる会社へ

 職場環境の整備を進める中で、次第に私が思うようになったのは、社員にとっての「ワーク・ライフ・バランス」の大切さは、会社に在籍している期間だけにとどまらない、ということでした。会社生活は、人生のある期間に過ぎない。人生を仕事だけに費やした人は、定年や退職で仕事を失うと、自分の中に何もなくなってしまう。だからこそ生涯にわたり、「ワーク」と「ライフ」両方のプランを考え、それぞれの充実をめざして努力していくべきだろうと。現在はきびしい時代です。どんな状態を迎えても、ワークとライフを兼ね備えた自立した人間になってほしい。そのことが結果的に、会社の仕事にも良い影響を与えるのではないかと、社員にも折にふれて話してきました。
 この3年間は、とても充実したものでした。静岡支社にとってのメリットも、大きかったのではないかと感じています。取り組みが他支社の参考として発信されることも多く、大きな評価をいただきました。
 静岡支社は、昨年の12月、静岡県男女共同参画課が進める「男女共同参画社会づくり宣言事業所」に登録しました。今年8月には、「静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞」を受賞。この受賞は、一連の取り組みの集大成になりました。私たちが取り組んできたプロセスが評価されたのだと、うれしく思っています。知事褒賞をいただいたということは、地元企業の手本になるということ。今後も男女が共に活躍できる会社づくりを推進し、企業として一層の社会貢献ができるよう努力していきたいと感じています。

取材日:2011.9




【 沿 革 】

1985静岡日本電気ソフトウェア株式会社設立
2001NECソフト株式会社と合併、NECソフト株式会社 静岡支社となる
2007静岡支社で「It’s かえる君」開発
2008静岡支社で「定時退社奨励日パトロール」「意識調査」開始
2009静岡支社で「WLD表彰制度」開始
2010静岡支社で「休暇取得奨励日」開始
「男女共同参画社会づくり宣言事業所」に登録
2011「静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞」受賞

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