県下第1号の均等・両立支援企業「くるみん」に
当社は遠州鉄道株式会社の系列会社として1984年に設立しました。コピー機などの情報機器の販売やメンテナンス、ソフトウエアの販売・開発を手がけています。現在従業員は155人、うち37人が女性社員です。
2005年、親会社である遠州鉄道が、全グループ企業を対象に「社員が働きやすい取り組みをしていこう」と事業計画を策定しました。それを受ける形で、仕事と育児を含めた家庭生活とを両立するワーク・ライフ・バランスで何ができるかを考え、育児休暇取得手当や短時間勤務制度などを整えてきました。
現在、育児休暇を希望した女性社員のほぼ100%が取得、その後は職場復帰しています。男性にも、3カ月の育児休暇(育休)、介護休暇を取得した社員がおります。当社は2008年度、次世代育成支援対策推進法に基づき認定される均等・両立支援企業「くるみん」に、300人以下の企業で、静岡県内初の認定を受けました。
こうした一連の取り組みをご評価いただき、厚生労働省から「ファミリー・フレンドリー企業」部門で「静岡労働局最優良賞」をいただきました。内閣府の「チャイルド・ユースサポート章」も受賞しました。
2005年、親会社である遠州鉄道が、全グループ企業を対象に「社員が働きやすい取り組みをしていこう」と事業計画を策定しました。それを受ける形で、仕事と育児を含めた家庭生活とを両立するワーク・ライフ・バランスで何ができるかを考え、育児休暇取得手当や短時間勤務制度などを整えてきました。
現在、育児休暇を希望した女性社員のほぼ100%が取得、その後は職場復帰しています。男性にも、3カ月の育児休暇(育休)、介護休暇を取得した社員がおります。当社は2008年度、次世代育成支援対策推進法に基づき認定される均等・両立支援企業「くるみん」に、300人以下の企業で、静岡県内初の認定を受けました。
こうした一連の取り組みをご評価いただき、厚生労働省から「ファミリー・フレンドリー企業」部門で「静岡労働局最優良賞」をいただきました。内閣府の「チャイルド・ユースサポート章」も受賞しました。
目標の70%を上回る女子社員の育休取得率100%
実は、当社の育児支援に関する取り組みは、グループ全体としての事業計画以前から始まっていました。きっかけは2001年、出産を控えた女性社員から「出産後も働きたい」という意見が出たことです。それまでは結婚・出産を機に退職というケースがほとんどでしたが、1997年に男女雇用機会均等法が改正されたこともあり、働き続けたいという社員の声を拾い上げるかたちとなったのです。
もともと当社には、社員から意見があれば何でもやってみよう、新しいものも取り入れてみようという社風があります。有給休暇の取得率もよく、休みを取りにくい雰囲気はないことから、そこに育休を取り入れ、もとの職場に戻る仕組みをつくること自体は、そう難しいものではありませんでした。
2005年から規定を作り、目標として「取得率70%以上」を掲げました。しかし嬉しいことに、育休を取得して職場復帰した女性社員が既にありましたし、子供ができても働き続けたいという女性社員が多かったですから、育休を取りやすい素地はできあがっていたのでしょうね。さきほども申し上げました通り、2002年以降、育児休暇を希望した女性社員のほぼ100%が取得し、その後職場復帰しています。
もともと当社には、社員から意見があれば何でもやってみよう、新しいものも取り入れてみようという社風があります。有給休暇の取得率もよく、休みを取りにくい雰囲気はないことから、そこに育休を取り入れ、もとの職場に戻る仕組みをつくること自体は、そう難しいものではありませんでした。
2005年から規定を作り、目標として「取得率70%以上」を掲げました。しかし嬉しいことに、育休を取得して職場復帰した女性社員が既にありましたし、子供ができても働き続けたいという女性社員が多かったですから、育休を取りやすい素地はできあがっていたのでしょうね。さきほども申し上げました通り、2002年以降、育児休暇を希望した女性社員のほぼ100%が取得し、その後職場復帰しています。
社内初の男性社員の育休はこうして実現した
問題は男性です。2007年にITサポート部のネットワークエンジニアの男性社員が3カ月間、育児休暇を取りました。遠鉄グループの社内報の記事で育児休業制度を知り、家庭の事情もあって、「是非、取得したい」と本人が希望したものです。
男性社員の育休は、会社としても前例のないことでしたので、正直なところ「できるんだろうか……」という不安はありました。希望どおりの育休を取ってもらうためにはどうしたらいいか、制度のこと、仕事の引き継ぎなど、事前打ち合わせを入念に行いました。
社会の流れとしても、男性の育児休暇取得が叫ばれはじめた頃でしたし、何より本人の希望が強かったんですね。直属の上司である課長も、「本人が取りたいなら、周りの支援が不可欠」と周囲に声をかけ、理解を得ることができ、話が前に進んだんです。上司本人は「大げさなことではなく、本人が取りたいというなら協力しましょうという感じ」と話していますが、上司によっても、職場の雰囲気によっても、男性の育休に対する受け止め方に違いが出てくるのかもしれません。
応援が出しやすい部署であったのも幸いでした。本人でないと対応できないお客様とのやりとりや、担当者ベースの信頼関係の上に成り立っている仕事を抱えている場合、どうしても業務の引き継ぎなどがネックになります。育休を取得した社員の場合、PC(パソコン)やサーバーの環境設定やその周辺の構築を担当する部署でしたので、ドキュメントさえあれば、比較的周囲がサポートしやすかったんです。
育休中は派遣社員を採用しました。ちょうど同じSE職の人にお願いできたことも、フォロー体制をスムーズにつくれた要因でした。短期間で、新しい人をゼロから育てるより、育休中という期間限定で、助けていただける方のほうが効率的だと感じています。
育休取得中は基本的に無給です。しかし当社では、育児休暇取得手当として月3万円を支給しています。
男性社員の育休は、会社としても前例のないことでしたので、正直なところ「できるんだろうか……」という不安はありました。希望どおりの育休を取ってもらうためにはどうしたらいいか、制度のこと、仕事の引き継ぎなど、事前打ち合わせを入念に行いました。
社会の流れとしても、男性の育児休暇取得が叫ばれはじめた頃でしたし、何より本人の希望が強かったんですね。直属の上司である課長も、「本人が取りたいなら、周りの支援が不可欠」と周囲に声をかけ、理解を得ることができ、話が前に進んだんです。上司本人は「大げさなことではなく、本人が取りたいというなら協力しましょうという感じ」と話していますが、上司によっても、職場の雰囲気によっても、男性の育休に対する受け止め方に違いが出てくるのかもしれません。
応援が出しやすい部署であったのも幸いでした。本人でないと対応できないお客様とのやりとりや、担当者ベースの信頼関係の上に成り立っている仕事を抱えている場合、どうしても業務の引き継ぎなどがネックになります。育休を取得した社員の場合、PC(パソコン)やサーバーの環境設定やその周辺の構築を担当する部署でしたので、ドキュメントさえあれば、比較的周囲がサポートしやすかったんです。
育休中は派遣社員を採用しました。ちょうど同じSE職の人にお願いできたことも、フォロー体制をスムーズにつくれた要因でした。短期間で、新しい人をゼロから育てるより、育休中という期間限定で、助けていただける方のほうが効率的だと感じています。
育休取得中は基本的に無給です。しかし当社では、育児休暇取得手当として月3万円を支給しています。
育休取得の目的は家族や同僚に対する気付き
もちろん周囲には、「本当に仕事が回っていくのか」という不安や戸惑いはあったようです。本人も「周囲に迷惑をかけるのではないか」「帰ってきたときに自分に仕事があるのか」と、思っていたようですね。技術革新の目覚ましいITの世界ですから、「休んでいる間において行かれるのでは」という心配も大きかったようです。
育休中、「周囲に迷惑をかけたくない」と思う一方で、「自分がいなくても仕事が回っているということは、自分は職場にいなくてもいい存在なんじゃないか」――そういう堂々巡りのジレンマをできるだけ回避してもらうために、配慮したのはコミュニケーションです。定期的に仕事の情報を流したり、社内報を郵送したり、仕事で分からないことは電話で聞いたり、ことあるごとにコミュニケーションを取るよう、心掛けました。
復帰後、本人から「飲み会の情報が欲しかった」という意見がありました。こちらとしては、「育休中だから夜は外出できないだろう」と、気を遣った部分もあったのですが、そういう内容も含めて、情報がもっと欲しかったのだそうです。
会社として見ると、男性社員が実際に育休を取得したことは、次に続くステップができたと言っていいのだと思います。ただし、単に「育休を取ること」が目的にならないようにしないといけません。育休によって、家族の大切さや、周囲に助けられ支えられていることのありがたさ、逆に誰かを支えることの必要性に気付くようになるということが、最も重要な目的だからです。
今回、本人も口には出しませんが感謝の気持ちをもっているようですし、周りの人たちもどう支援したらいいのか、何となくわかったようです。今回はたまたま3カ月と長かったですけれども、他の職種でも1~2週間なら対応できるでしょう。実際、現在、育休取得を検討している男性社員が2名ほどいます。
育休中、「周囲に迷惑をかけたくない」と思う一方で、「自分がいなくても仕事が回っているということは、自分は職場にいなくてもいい存在なんじゃないか」――そういう堂々巡りのジレンマをできるだけ回避してもらうために、配慮したのはコミュニケーションです。定期的に仕事の情報を流したり、社内報を郵送したり、仕事で分からないことは電話で聞いたり、ことあるごとにコミュニケーションを取るよう、心掛けました。
復帰後、本人から「飲み会の情報が欲しかった」という意見がありました。こちらとしては、「育休中だから夜は外出できないだろう」と、気を遣った部分もあったのですが、そういう内容も含めて、情報がもっと欲しかったのだそうです。
会社として見ると、男性社員が実際に育休を取得したことは、次に続くステップができたと言っていいのだと思います。ただし、単に「育休を取ること」が目的にならないようにしないといけません。育休によって、家族の大切さや、周囲に助けられ支えられていることのありがたさ、逆に誰かを支えることの必要性に気付くようになるということが、最も重要な目的だからです。
今回、本人も口には出しませんが感謝の気持ちをもっているようですし、周りの人たちもどう支援したらいいのか、何となくわかったようです。今回はたまたま3カ月と長かったですけれども、他の職種でも1~2週間なら対応できるでしょう。実際、現在、育休取得を検討している男性社員が2名ほどいます。
職場や職種による社内の育休取得格差が課題
育児休暇制度の波及効果のひとつに、採用活動がしやすくなったということがあります。社員を大切にする、長く働ける会社という印象が、男女を問わず、学生の方に伝わっているようで、応募数も増えました。新卒を1人採用すると、社員として一人前になるまでに、かなり時間がかかります。同じ人に長く働いてスキルを磨いていただく方が、会社にとってもメリットになるのではと思います。
社外の方からは、「3カ月も休んで、よく会社が回りましたね」と言われることがあります。ただし、今回の場合、いくつかの条件が重なったことが取得実現の大きな要因だったと思います。本人の希望が強かったこと、サポートしやすい職種だったこと、支援する上司と職場の仲間に恵まれたこと――。つまり、制度を整えただけで、取得が実現するかといえば、それは難しいというのが実感です。
ただでさえ「短時間で結果を出せ」と言われる世の中です。制度だけでは何も動きません。何よりも大切なのは、周囲の理解、支援なのです。
裏を返せば、職場によって育休取得に格差がある点が、課題と言えるでしょう。「取ってみようかな」と言える部署もあれば、言えない雰囲気の部署もある。仕事の性質上、仕方ない部分もありますが、温度差を少しでも軽減するために、時短勤務制度や在宅勤務、各種研修なども含めフォローを進めているところです。
社外の方からは、「3カ月も休んで、よく会社が回りましたね」と言われることがあります。ただし、今回の場合、いくつかの条件が重なったことが取得実現の大きな要因だったと思います。本人の希望が強かったこと、サポートしやすい職種だったこと、支援する上司と職場の仲間に恵まれたこと――。つまり、制度を整えただけで、取得が実現するかといえば、それは難しいというのが実感です。
ただでさえ「短時間で結果を出せ」と言われる世の中です。制度だけでは何も動きません。何よりも大切なのは、周囲の理解、支援なのです。
裏を返せば、職場によって育休取得に格差がある点が、課題と言えるでしょう。「取ってみようかな」と言える部署もあれば、言えない雰囲気の部署もある。仕事の性質上、仕方ない部分もありますが、温度差を少しでも軽減するために、時短勤務制度や在宅勤務、各種研修なども含めフォローを進めているところです。
育児休暇とは異なる介護休暇制度の難しさ
育児休暇よりもさらに長期的に考え、取り組んでいかないといけないのが「介護休暇」の問題です。当社では2008年、男性の管理職が3カ月、介護休暇を取得した例がありますが、今後さらに多くの課題をクリアしなければいけないと痛感しています。
親の介護の場合、対象となるのは役職クラスであり、責任も大きくなります。周囲のフォローも育休と同じようにとはいきません。加えて、育児は3歳までと決まっており、その後は成長とともに手がかからなくなりますが、介護の場合、状況によっては「いつまで」という終わりが見えないわけです。そのうえ、突発的に休まなければならない事態となるケースも考えられます。
実際に介護休暇を取った社員の場合、計画的な取得でしたが、本人も「急に休めば周りに迷惑をかけてしまう」「介護休暇を取ったことで、責任が少ない仕事へ移るのではないか」という不安感はあったはずです。加えて、精神的にも体力的にも、介護はかなり大きな負担がかかると聞いています。
会社として、介護休暇の取得者をどう支援していくか、職場復帰をどう実現させるか、今後、現状を見据えてさらに制度を改善していかなければなりません。
親の介護の場合、対象となるのは役職クラスであり、責任も大きくなります。周囲のフォローも育休と同じようにとはいきません。加えて、育児は3歳までと決まっており、その後は成長とともに手がかからなくなりますが、介護の場合、状況によっては「いつまで」という終わりが見えないわけです。そのうえ、突発的に休まなければならない事態となるケースも考えられます。
実際に介護休暇を取った社員の場合、計画的な取得でしたが、本人も「急に休めば周りに迷惑をかけてしまう」「介護休暇を取ったことで、責任が少ない仕事へ移るのではないか」という不安感はあったはずです。加えて、精神的にも体力的にも、介護はかなり大きな負担がかかると聞いています。
会社として、介護休暇の取得者をどう支援していくか、職場復帰をどう実現させるか、今後、現状を見据えてさらに制度を改善していかなければなりません。
「子供参観日」や「ノー残業デー」も実施
これまでは、出産から復帰までの制度的支援が最も重要な課題でした。しかし今後は、核家族化がますます進んでいることもありますし、子供が3歳になって以降、いかに社員と家族をサポートしていくかに、支援の重点を移していく必要があるでしょう。静岡県や浜松市など、自治体でも積極的な取り組みを行っていますが、地元密着型の企業として、そのあたりもサポートできないかと考えています。
昨年は、子育て支援を行っているNPOの方を講師に招き、これから子育てが始まる世代や現在子育て中という世代を対象に、「男性の子育てへの関わり方」というテーマで講演を行いました。すべての男性社員が育休を取得するというわけにはいかない現状もありますので、何らかの働きかけをしていければと思っています。
こういった社員を大切にする社風は、遠鉄グループ共通の経営理念である「4つの価値観」――「お客様本位」「独自能力」「社員重視」「社会との調和」がベースになっています。そうした理念のもと、2003年に遠鉄グループ全社でスタートした「経営品質向上プログラム」のひとつに、「社員重視」というのがあります。「品質向上のためには、まず社員が満足できる環境でなければならない」というものなのですが、その中に、人材育成や社会貢献活動があります。当社での具体的な取り組みとしては、親の職場を子どもが訪ねる「子ども参観日」や、家族のふれあいを増やすための「ノー残業デー」などがあります。
昨年は、子育て支援を行っているNPOの方を講師に招き、これから子育てが始まる世代や現在子育て中という世代を対象に、「男性の子育てへの関わり方」というテーマで講演を行いました。すべての男性社員が育休を取得するというわけにはいかない現状もありますので、何らかの働きかけをしていければと思っています。
こういった社員を大切にする社風は、遠鉄グループ共通の経営理念である「4つの価値観」――「お客様本位」「独自能力」「社員重視」「社会との調和」がベースになっています。そうした理念のもと、2003年に遠鉄グループ全社でスタートした「経営品質向上プログラム」のひとつに、「社員重視」というのがあります。「品質向上のためには、まず社員が満足できる環境でなければならない」というものなのですが、その中に、人材育成や社会貢献活動があります。当社での具体的な取り組みとしては、親の職場を子どもが訪ねる「子ども参観日」や、家族のふれあいを増やすための「ノー残業デー」などがあります。
社員を大切にすることが生産性の向上につながる
遠鉄グループでは年に1度、グループ全体で社員に対する意識調査を行っています。いざ「社員の声を聞きましょう」と言っても難しいものですが、グループとして実施し、その結果がフィードバックされれば、生の声が活用できる絶好の機会となります。1社だけでは実現できないことも、継続して計画できるのはグループの強みでしょう。
品質向上と言うと堅苦しく聞こえますが、「より良い会社」に必要な独自の能力を引き出していくには、社員を大事にし、仕事に対する意欲を高めることが大切で、最終的にはその意欲が会社の生産性へ、さらには地域社会の貢献につながるのだと自負しています。
最後に、私事で恐縮ですが、実は最近、初孫が生まれたんです。これが本当にかわいくて……(笑)。恥ずかしながら、自分の子供が生まれたときには、仕事と日常生活のことで精一杯で、なかなか家庭を顧みる余裕がなかったのですが、こうして孫に接してみると、若い世代にはできるだけ育児休業制度などを活用して、子育てに関わっていってほしいと思いますね。そうすることで、家庭の大切さを実感していただきたい。そのために、会社全体でサポートしていくつもりです。
品質向上と言うと堅苦しく聞こえますが、「より良い会社」に必要な独自の能力を引き出していくには、社員を大事にし、仕事に対する意欲を高めることが大切で、最終的にはその意欲が会社の生産性へ、さらには地域社会の貢献につながるのだと自負しています。
最後に、私事で恐縮ですが、実は最近、初孫が生まれたんです。これが本当にかわいくて……(笑)。恥ずかしながら、自分の子供が生まれたときには、仕事と日常生活のことで精一杯で、なかなか家庭を顧みる余裕がなかったのですが、こうして孫に接してみると、若い世代にはできるだけ育児休業制度などを活用して、子育てに関わっていってほしいと思いますね。そうすることで、家庭の大切さを実感していただきたい。そのために、会社全体でサポートしていくつもりです。
取材日:2011.6