「焼津」でつながった市民活動
広告や出版の仕事をしながら、まちづくりに関わるきっかけになったことが二つあります。一つは93年に「静岡ヒューマンカレッジ」に参加したこと。まちづくりの人づくり塾、というテーマの講座で、いつか焼津に役立つんじゃないかと思って受講しました。もう一つが01年に「ぐるぐるマップ焼津特集」を作ったこと。そのときあらためて「焼津って何?」ということを見つめ直したんです。
今、焼津おでん探検隊で、焼津の水産を知ってもらう「かつまぐプロジェクト」や、平和について考える「ビキニ市民ネット焼津」など、いろんな活動に携わっています。でもそれらは別々に派生したものではなく、私の中で一つずつつながっていったものです。 『ぐるぐるマップ』を作ったことで、焼津市がシンポジウムを開き、その会場で出会ったのが「焼津おでん探検隊」を作ろうと動き始めていた人だった。そこから焼津の食文化を根っこから作りたいという気持ちが強まり、「かつまぐプロジェクト」を始めた、という具合に。
ビキニ市民ネットもそう。焼津について調べたとき古本屋で『福竜丸』という本を見つけたんですが、それで自分とビキニ事件とがスッと結びついたんです。この事件は焼津では一種の「アレルギー」があって、何とかいい伝え方ができないかな、と思っていたんですが、同じように考える人がいて、ビキニ市民ネット焼津の立ち上げに声をかけてもらった。
港を会場にしたトロ箱ライブやモダンアート展も同じです。核になるチームが違うので、来てくれる人たちも違うけれど、いろんな市民グループに少しずつ重なるメンバーがいて、何かやるとまた新しいつながりが生まれてくる。ちょうど脳の神経細胞がどんどん伸びてつながっていく、そんな感じです。
住む人と社会の関係作りが重要
私は、焼津というまちのキーワードは3つだと考えています。つまり「水産」「平和」そして「文化」。「水産」は言うまでもなく港町・焼津の代表的なイメージですし、「平和」は第五福竜丸事件。「文化」は地域のエンターテインメント的な、焼津出身の画家やアーティスト、ミュージシャン、さかのぼれば、小泉八雲が焼津に毎年通っていたというような、感性を育てる「教育エリア」という側面です。
それぞれにグループがあって、さまざまな取り組みをしていますが、それらをやるからには、小さくても感動があってほしい。「かつまぐプロジェクト」ではカツオ一本おろしたりしますが、単に魚をおろせるようになるだけでなく、人間味のある漁師さんの体験談も聞いてほしいし、焼津のまちがカツオを中心にどうやってできあがったかを、海風を感じながら歩いて五感で知ってもらいたい。「焼津流平和の作り方」でも、当時の体験者にも参加いただいて、ビキニ事件についてのシンポジウムを開くことで、「福竜丸事件の焼津」で平和を訴え、核を巡る現状を考える形にしました。
社会参加っていうと、みんながまちづくりのことをやるっていうイメージだけど、そういうことでは全然ないんですよ。市民活動に積極的に参加したり、仲間を作ることが得意な人たちはいいけれど、まちってそういう人たちだけのものじゃない。まちづくりって、その人と社会がどういう関係をつくるかということが一番大事だと思うんです。
声を出したくても出せない人たちの声。今まで、あまり意識しなかったけれど、実はそういう人たちがすごく多いということに、最近、気付いたんです。
人間力を育てる「人づくりのまちづくり」
これから「地域」がどんどん自分達で決定していく方向になったとき、誰が力を発揮するかといえば、市民だなと思うんです。市民が参加して、声を上げる仕組みがないとシアワセなまちにはなれない。例えば、一人暮らしの高齢者や子育て中の母親、20~30代の若者でも、誰にも相談できず仕事も見つからず…という人が、底のない穴みたいな場所で取り残されている。そういう人って実はすごく多い。
それを解決するのはやっぱり「人間力」、人を育てる仕組みなんです。よく、まちづくりのために人を育てるって言いますが、反対で、まちづくりは目的じゃなくて「人を育てる道具」なんだと思います。
困っている人がいれば助けずにはいられない人が地域に増えれば、エレベーターやエスカレーターがなくても、人は幸せを感じられるんじゃないか。産業のことで言えば、創意工夫を面白いと思う人間、わくわくして取り組む人間。そういう人たちがいて、初めていろんなことが育っていくと思うんです。
私が「ヒューマンカレッジ」でまちづくりについて学んで、いつか焼津にもこんなのができればいいなと思ってきたことは、結局「人づくり」。そのために始まったのが「トロ箱カレッジ」で、いろんなテーマで講師を招いて、拠点となる「焼津カマボックス」で今、2期目が開かれています。
焼津の人って、お祭りとか魚河岸シャツとか、自分のまちのことを堂々と自慢する気質なんですよ。根っこが焼津にあることに、誇りを持っている。そんなまちで、人と人、まちと人の関係が生まれる、それこそがステキなこと。焼津で「人間力」を育てる「人づくりの仕組みづくり」を進める、それがこれからの目標です。
取材日:2010.10