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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

イノシシたちとは家族同然の絆 がある。
この賢い生き物のことをもっと知ってほしい。

澁谷茜(しぶや・あかね)

澁谷茜(しぶや・あかね)



斉藤ファーム イノシシ調教師


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イノシシの移動動物園 - 斉藤ファーム
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偶然の積み重ねから、この仕事に出会った

 小さいころのことなのでちゃんとした記憶ではありませんが、両親が私を育てるときに動物園などへたくさん連れて行ってくれたらしいんです。おかげで、気がついたら動物が大好きになっていました。ペットとしてはインコやハムスター、ウサギなど、小さい動物を飼っていましたね。でも、環境としてはごくごく普通だったと思います。
 あえて転機と言えば、高校卒業間近。進路を決める際に、私は手に職をというか、大学には行かない前提でいました。それでどうしようかといろいろ考えているうちに、「そういえば、私、動物好きだったな」と思い出した。先生に相談したら、東京の動物の飼育を学べる専門学校を教えてくれて、そこに進学することを決めました。
 専門学校では将来のことも見据えてたくさんの職場へ研修に出かけました。私は最初、馬に興味があったので牧場などをメインにまわりました。でもそこからどういうわけか急に方向性が変わって、いまはイノシシをやっているんですよね……。というのも、学校でも様々な動物を飼育していたのですが、そのなかではブタが好きだったのです。あるとき、いっしょにブタをかわいがっていた後輩が「猪のテーマパークっていうのがあるみたいですよ」と教えてくれた。「なんだそれ?」と思って、インターネットで調べてみたら、伊豆に「いのしし村」という、イノシシの芸などを見せる施設が実際にあり、ホームページに「研修受け付けてます」と掲示がありました。実は動物の飼育だけじゃなく調教にも興味があったんですよね。それで調教の勉強もできるのならと、すごく悩んだんですけれど、最終的に馬を諦めていのしし村に就職することにしました。
 就職してみると、実際の仕事は大変でしたが、自分がやりたいと思うことをしているという充実感がありました。流れ流れでこの仕事に出会いましたが、自分でも向いているんだろうなと感じています。2006年に、私にイノシシの調教を教えてくれたトレーナーの斉藤恒蔵さん(現・斉藤ファームオーナー)が、いのしし村から独立されることになり、その際、私も一緒に着いて行きました。現在の斉藤ファームは、そのとき、ふたりで立ち上げたものです。

イノシシ調教師としての日々

 イノシシはとても警戒心の強い動物なので、まずはきちんとした信頼関係を築くことがとても大切です。人間は怖くないよということを教えるためにもなるべく接する時間を多く取ります。例えば、うり坊を引き取ると、最初は一緒に寝たりして絆を深めるんです。また人間のこどもと一緒で、ミルクの時間になれば寝てるときだろうがなんだろうが関係なしで起こしてきますから、子供のころは本当に大変です。
 毎朝8時半にここへ来て、動物舎を空けて、出張がないときは動物の世話をしています。午前10時に餌をやって、それ以外は天気がよければ外に出してあげたり、散歩なんかもしますよ。ちゃんとみんな私の後ろをついて歩いてきます。小さい子(イノシシ)はこの昼間の時間に訓練をしたりして、午後4時にもういちど餌をあげて動物舎を閉め、だいたい午後5時過ぎには帰宅します。
 斉藤ファームの主な仕事は、イノシシとミニブタの移動動物園です。住宅展示場やショッピングセンターなど、集客イベントの一部として呼んでいただくことが多いですね。また、京都にイノシシを奉って、「狛(こま)イノシシ」があることで有名な護王神社という神社があるのですが、そこからはお正月に毎年呼んでいただいています。北海道から九州まで、マイクロバスに乗って、動物たちとみんなで本当にどこへでも出かけて行きますね。最近人気があるのはミニブタのレース。会場にコースを組み立て、障害物を置いて、そこを4匹のブタが走ります。どの子が勝つかお客さんに予想してもらい、当たれば景品をあげますよという。レースをやらない時間はブタにさわってもらったり、あとはイノシシの曲芸や記念撮影も好評です。

お客さんに見に来てもらえるようになりたい

 移動動物園も、2006年に立ち上げた頃に比べ、お仕事の依頼がすごく増えてきました。しかしこれからは私たちが出かけて行って動物を見てもらうだけではなくて、逆に、お客さんに動物たちを見に来てもらえるような拠点・施設を構えたいと、オーナーと二人でよく話しています。それで実際に去年から、ここ斉藤ファームの上の山にある土地を開墾したりして、徐々に施設作りの準備をはじめています。まあ、なかなかそこから話が進まないんですが……。
 イノシシはよく農作物などに被害を与える動物として見られたりしがちですけど、人間が自然を壊してイノシシたちが生活しているところに入って行っているという側面もありますよね。一方的に悪者扱いするのもどうなのかなと思います。世話をしていても、とってもかわいいですし、本当に賢い生き物だなと感じますから。だから、当たり前かもしれないですけど、ひとに悪さをするためにわざわざ降りてくるわけじゃないと思うんですよね。身近な野生動物のひとつとして、見て、知ってもらえる場所が作れたらいいなと思います。
 斉藤ファームのイノシシは、最初、モモとサクラという名前の2頭だったんですが、いまは9頭まで増えました。これからは動物たちの世代交代も考えて行かなくてはなりません。拠点を作ることができればもう少し人も必要になりますよね。斉藤ファームは私とオーナーのふたりではじめたんですけど、ずっと二人でやって行くのも難しいですし、私としても、同世代でいっしょに働けるひとができればうれしい。この仕事を受け継いでくれるひとを育成し、次世代へつないで行く。それがいまの夢ですね。

取材日:2010.12



神奈川県生まれ 静岡県伊豆市在住


【 略 歴 】

2004 天城いのしし村に就職
2006 斉藤ファーム立ち上げ

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