ニジマスは焼きそばの「二番煎じ」
商店街の理事から商工会議所青年部へと引っ張られて、町づくりに関わるようになりました。「富士宮にじます学会」もその一つですが、よく勘違いされるのが、富士宮は焼きそばやニジマスを売りたいからやっているわけでなくて、何か材料を使って町をPRしたいだけ。材料は何でもいいんです。
B1グランプリで焼きそばが有名になって、町に大勢人を呼べたから、次の年にも同じように「B1フェスタ」をやることになったんですが、商工会の青年部でプロジェクトチームを組んで、じゃあ何をやるかと考えたとき、どう考えてもこれを面白がるとは思えない。何か新しいものがないと、人なんて来ないんですよ。
しかも焼きそばって、富士宮の中では「なんで富士宮が焼きそば?なんでうちの町がB級?」という印象なんです。町は歴史が古く、昔から富士宮のお土産といえばマスの甘露煮が定番だったのに、なぜ焼きそば?年配の人にはいつもそう文句を言われていました。
そこで「じゃあニジマスをやるか」と。それも話題づくりのために、ニジマスを「二番煎じ」と言い切ったら、マスコミは絶対飛びつくんじゃないか。そこまで言うならにじます学会も立ち上げるか、となったわけです。B1フェスタまで1カ月切っていました。なので、にじます学会のキャッチコピーは「二番煎じ」。そう宣言してやることがインパクトだし、のぼり旗もやきそば学会ののぼり旗の完全コピー。やるならとことん二番煎じでやりましょう。そうやって始まったんです。
ニジマスは今がチャンスだった
「じゃあ焼きそばは男が代表だから、にじますは女だ」ぐらいの理由で私が代表になったんですが、半年ぐらい頑張ったらだんだんフェイドアウトするつもりだったんです。ところが養鱒組合が盛り上がっちゃった、ニジマスを焼きそばみたいにしてくれるだろう!と。その上、ニジマスが市の魚に認定されてしまった。これはもうフェイドアウトどころじゃない、PRし続けなければいけないですよね。
でも確かに、ニジマスはいつかはやるべきものだったんです。富士宮では湧水を活かして60年ぐらい前から養鱒をやっていて、全国の生産高は1位。もっともクローズアップされる基幹産業です。かといって、ここで一番食べられている魚かというと、そうではない。ニジマスは釣ってくるもので買うもんじゃない、そういう感覚が地域、特に年配の人には強いんですね。
ですが今、ニジマスを食べたことがない人が多くなった。これが幸いでした。食べたことがないということは、釣ってくるものだという先入観も、川魚だからという先入観もない。マスバーガーも、食べたことのない世代…若い人や子供、そのお母さんに向けてPRするために作ったんです。そういう意味では、ニジマスは年数を重ねてきたけれど、今がちょうどPRするのにいい時期だったんでしょうね。
おいしさで町を売り出す仕掛け
ニジマスと同じ時期に、豚、ミルク、酒の学会も立ち上げて、5つで「富士宮市地域力再生総合研究機構」が出来ました。そこで一番みんなが嫌うのが「そんなにやりたかったんですか」と言われること。みんなそれをやりたいわけじゃないんですよ。富士宮はみんな町に愛着を持っていて、町をPRしていこうとする雰囲気が盛んで、その気持ちが強い。だから焼きそばもニジマスも「たまたま」。でもそれは、ここにいい食材があるからできること。私たちにとっていい食材はあって当たり前で、それを使ってどうPRするかは「富士宮」をどう売っていくかに他なりません。
焼きそばで知名度があがって、町を知ってもらえるようになった。その次に何を目指しているかというと、富士宮が「焼きそばの」だけで終わらないように「おいしいものがいっぱいあるよね」「住んでみたい町」と言われるような目標設定。そして、その中にやはりニジマスは外せないんです。
市の魚になったので、小中学生に講義をすることもあるんですが、必ず子供に言うのが「富士宮のPR方式は口コミ方式なので、おいしいと思ったら人に言いなさい。お母さんに言ったら夕飯にニジマスを買ってくれる。口コミが一番強い」と。それから「富士宮が有名になったんだから、お客様がたくさんいらっしゃる。そのとき町にゴミがいっぱい落ちていたり川が汚れていたりしたら、みんなが恥ずかしい。川が汚れていたらニジマスが死んでしまうので、ニジマスの町ではなくなってしまう。それを考えてみんなで生活しましょう」。そう伝えていくのが、町を、人を作っていく材料の一つになるんです。それこそが学会たるものの町づくりの方法だといえます。
だから単純に焼きそばだけのことではないし、ニジマスだけのことではない。地域の文化性を上げたり教育の場になったり、そういう範囲にまで反映していくと、私たちは信じています。
取材日:2010.11