安心できる静岡が大好き
父は建設機械関係の仕事をしていて、時々日本の方が家に見えたことから日本に興味をもって、日本語を始めました。そのころ、日本語を学ぶ人は少なくて、友だちに「なんで日本語なの」っていわれましたね。難しいけどとても面白くて、日本への興味が深まり、ついに「留学したい!」と思うようになりました。願望がかない、1998年に静岡に来ました。2000年に静岡県立大学に入ってからは、日本人の友人が先生となり、おかげで日本語がずいぶん上達しました。静岡は住みやすいですね。なんといっても、静岡の人は心が暖かで、やさしい人が多いと思います。
私費留学だったので、アルバイトをすぐに始めました。飲食店の厨房で洗い物をしたり盛り付けたり。でも、最初は言葉が十分理解できなくて、忙しいときにオーダーの間違いをしたりして、ミスが多かったですね。そのようなとき、周りの人にやさしくしていただいて、ますます静岡への愛着がでてきました。
こんな静岡が好きですね。ここにいると安心できます。その後、起業を思い立ち、それならやっぱり静岡がいいなってことになりました。静岡は、私の第2のふるさとですね。
お互いの文化を分かり合っていい関係づくりを
日本に来る前は日本のことがあまりわからなかったのに、学生生活をしてすごく日本のことが好きになって、ベトナムで日本のことを紹介していきたいと思いました。また同様に、静岡でベトナムを紹介したいとも思いました。
県立大学を卒業してから、ベトナムの大学で日本語を教えるようになりました。いまでも年に1度くらい出かけていって、「日本語コミュニケーション論」の講座で日本人がどのように考え、どうコミュニケーションをとっていくかの話をしています。文化が違うと、同じことに対して考え方や感じ方がずいぶん違ってくるものですね。
静岡では、ベトナム料理の店を始めました。料理を提供することで、まずベトナムに関心をもっていただきたかったからです。食文化から出発するのがいちばん入りやすいですね。料理は、日本人の口に合うような味に変えず、ベトナム料理を忠実に再現することにこだわっています。料理教室やアオザイの試着体験などもやってきました。開店して5年目になりますが、みなさんに喜んでいただき、静岡の人に受け入れられたと思っています。ベトナムに興味がなかったけど、ベトナムへ行ってみたくなったという人が結構いらっしゃいます。ベトナムの学生も、日本に留学したいという人が多く出てきました。
いま、静岡にベトナム人は確かな数字ではないのですが70人くらい住んでいるのじゃないでしょうか。留学生がいちばん多いですね。私が来たころは20何人くらいですから、本当に増えましたね。距離は間違いなく縮まっていますよ。
ベトナム留学生のための奨学金制度を作りたい
これからの夢は、ベトナムの留学生に対する奨学金の創設です。なんとか、それを実現させたいと思います。ベトナムでは貧富の差が大変大きいので、多くの留学生は家からの仕送りが難しいのです。みんなアルバイトをして生活費や学費を稼いでいる現実や、留学の途中でお金がなくなり進学できなくなったケースもあり、奨学金制度をぜひ作っていきたいなと思います。みんなで力をあわせれば大きな力になって、夢はかなうはずです。
私は、すばらしい人たちに囲まれています。お店にいらっしゃるお客様の中には、社会的に成功した人が大勢いますが、どなたも謙虚ですばらしいと思います。このような方々とのおつきあいは、私にとって大変貴重な経験で、人生の大きな勉強となっています。おかげで、人の立場に立って話を聞くとか、人の立場に立って考えるとかできるようになりました。これは、人生が豊かになるひとつの大事な要因だなとつくづく思います。
本当に日本に来てよかった。だから、もっとベトナムの若者たちに日本に来てもらいたいです。
近い将来、静岡発の私の活動をほかの町でも展開していきたいと思って、日々精進しています。
取材日:2010.10