放置されている竹の有効活用を考える
理系科目が好きで、海や魚も好きだったので、迷いなく大学は水産学部を選びました。ドクターコースにいくときも、「女だからやめなさい」と普通ならいわれるだろうに、反対されませんでした。女だからということはなかったですね。まあ、理系は女性が少なめではありますが。光産業創成大学院大学の教員のなかで、女性は私1人です。大勢の男性に囲まれて、私は光バイオ分野の研究をしています。
光バイオはまだ始まったばかりの分野で、全然みえていません。だから、研究のしがいのある分野といえます。やることがいっぱいある、やってないことがいっぱいある、というのが魅力です。
2007年、農水省のバイオエタノールを作りましょうというプロジェクトに参加しました。 日本にある資源の、放置されている竹でバイオエタノールを作ろうということになり、いい成果がでました。プロジェクトでは、エタノール1ℓ100円くらいをめざしていましたが、ブラジル産のサトウキビから作られたエタノールは1ℓ40円。価格差がありすぎました。
それなら、もっと付加価値の高いものを作ればいい。竹の研究を続けるのなら、身近で使い勝手のいいものがいいのではと考えました。例えば、お酒などどうでしょうか。竹の酒とか竹の焼酎など1本1000円くらいで売れますよね。エタノールで安い価格で勝負をかけるより、もっと枠も価格も広げたほうが研究のしがいがあります。
今後も、竹でいろいろ考えていくのが課題ですね。
天然成分の色と香りで、勝負だ
今年2月に、色と香りを扱うサクラ・ラボラトリーという会社を作りました。農産物を捨てるより香りとして利用したほうがいいのでは、と思ったのが会社設立のきっかけです。天然物から色と香りを抽出して売りたいのです。
農林水産業が危機だという話ばかり聞きます。だから、加工品を作って売って、材料費くらいはお渡しできれば収入になっていく、という仕組みを作っていきたいのです。
近くにあるものからやっていこうと、まずは竹。いま、竹の香りを抽出して、何かに使えないかと考えています。アロマテラピーに日本の香り・竹があっても面白いでしょう。天竜杉の香りとかも。ほかにイチゴ、お茶、ミカンの色と香りを抽出しています。
天然なので日持ちがしない、それとの闘い。どれだけ保存期間を延ばし持続させるか、です。でも、日持ちしなくてもいいじゃないですか。香りも色も変わらないというのも恐い話で、変わらないのは人工的だと思いますね。天然は色も香りも変化します。とはいえ、やはり色と香りがぬけるのは問題ですね。それを止めるには、酸化防止剤のビタミンCとかの安全なもので、ある程度抑えていこうと思っています。天然資源の活用ですね。
経営に関しては、いままで生きてきたなかでまったく違う世界なので、衝撃的でしたね。営業、お金の計算、書類も作らないといけないので、大変。ところが、それが楽しくて。税金はこうやって払っているのだとか、ものすごく基礎から実感しています。世の中の仕組み度外視で研究ばかりやっていたので、新鮮です! 視点が変わりますね。
会社ですので、売り上げ1000万円が目標です。5年以内に達成していないと、会社つぶれちゃいますね。
夢があります。3年くらいで、子ども用の天然色系色鉛筆みたいなものを作りたいです。口に入っても大丈夫、天然色素なので香りを少し残しておこう、色も変わる、そういう鉛筆です。赤色はイチゴの香り、オレンジ色はミカンの香り。小さいときの記憶って子どもに影響するでしょう。本物の香りを覚えるってとても大事なことだと思います。
イチゴを通した異業種交流も楽しい
2009年から、農水省と栃木県が主体となった「イチゴプロジェクト」にかかわっています。流通とか輸送でイチゴは傷みやすいですね。トラックの輸送振動とかがイチゴにどうかかってくるのか、それを防ぐためにトラックや包装をどう加工するか、そのイチゴの状態を光で計測できないか、ということの研究です。私が担当しているのは、振動を受けたイチゴは受けていないのと比べて、傷みやすかったりくずれたりすることがわかっていますが、その実験データが取られていないので、その成分を分析したりする研究をしています。包装やダンボールなどさまざまな会社がかかわった異業種交流なので、とにかく勉強になって楽しいです。新しいことが、1つひとつ私のなかに蓄積していきます。
研究者・先生・社長と3つの顔がありますが、いまはまだ、研究が忙しくて。大学が本業、社長はまだ副業ですね。研究もシビアです。データはここまで出ますと引き受けるので、こなさないといけないわけです。楽しいのはサクラ・ラボラトリー。好きなようにできるから。やることがすべて目新しくて、ドンドン進化しています。そのうちに、社長業が本業になるでしょうか。
取材日:2010.11