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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

司書であり、医療者である責任。
病と向き合う親子の心を、本で支える。

塚田薫代(つかだ・しげよ)

塚田薫代(つかだ・しげよ)



静岡県立こども病院医学図書室司書


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医学情報キホン勉強会
静岡県立こども病院図書室

病の理解のために、医学図書室を家族に開放

「医学図書室司書」。あまり知られていませんが、医師や看護師などの医療者が求める情報を、専門の医学書、医学雑誌やデータベースから提供する、そして、入院中の患者さんのために本のある環境を整え、そのご家族に医学情報を提供する、といった仕事です。
 通常、医療関係者のための医学図書室ですが、患者さんのご家族も本を閲覧できます。小児は難しい疾患の方も多く、医師の説明も専門的で難しいことも少なくないので、よりよい理解のために医学情報を提供したいという思いが、私たちにも病院の方針としてもありました。
「インフォームド・コンセント」と最近よく言われますが、一生懸命医師が説明しても、患者さんと医師とでは圧倒的に情報量に差があります。それをできるだけ減らすことでコミュニケーションも取りやすくなるのです。
 人間、分からないことは不安ですよね。ましてや自分の子どもが病気となれば、その不安は計り知れません。ですからここで本を調べて、病気のこと、この先のことが分かれば、不安の中にも希望が見えて「少し安心しました」と言われるご家族もいらっしゃいます。ご家族の負担は相当のものですが、希望があれば頑張れるんです。
 それは大人に限ったことではなく、子どもに対しても年齢に合った説明が必要です。とても怖い注射や検査も、なぜそれが必要かを説明すれば、子どもだから泣きはしますが、それでも頑張れる。実はそういうとき、絵本が有効なんです。子どもに病気を説明するための絵本も何冊も出ていて、医師が「○○病の説明ができる本ある?」と図書室に来ることもあります。

手続き不要、病棟を巡回する「わくわくぶんこ」

 私がここに来た2年後「わくわくぶんこ」を開設しました。当時も病棟に本はあって、医師や看護師も気にはかけていたけれど、医療の面で手一杯。親御さんたちも治すのに精一杯。でも、子どもが生活する環境に本がないのは不自然です。入院中だからこそ子どもらしく暮らすのはとても大事で、私は司書として、子どもの本の大切さに目を向ける責任がありました。
 子どもたちの希望を聞いて、その名の通りわくわくするような、楽しく明るい本を入れるようにしています。寄付や寄贈で集まった本は今では約5000冊。図書室まで来られる子の方が少ないので、ブックトラック18台に載せて各病棟をローテーションさせています。貸出手続きも期限もありません。自由に手にとっていいんです。お母さんに読んでもらったり、夜寝る前、看護師に読んでもらったりしています。季節の本、旬の本、新しい本の魅力は格別です。
 子どもに本を持ってくるねと約束したら、絶対に持っていく事を心がけています。それも一両日中に。一週間後に持っていっても、それは約束を守ったことになりません。子どもは今、この瞬間を生きているし、かなり厳しい治療を頑張っている子たちもいるので、約束を守るのは大切なこと。でないと大人を信用してもらえなくなるんです。
 信用してもらえないとその後の治療にも影響します。医師が説明しても、信頼関係がなければ頑張れない。だから約束は守るし、ボロボロの本なんて絶対に手渡しません。体がうんと弱っているときに破れた本なんて…切ない気持ちになるでしょう?子どもの本をよく分かっている大人がきちんと管理し選んだ本を届ける。その場しのぎの嘘はつかず、子どもだからこそきちんと誠実に接する。対等に、病気と闘っている小さい人たちを尊敬、尊重する気持ちが、私たち小児医療に従事する人間には不可欠です。

公共図書館との連携で医療情報を市民に提供

 公共図書館でも医学情報に対するニーズは高くなっていて、平成21年度の静岡市民の意識調査(注)で、公共図書館に望む情報の第一位が「健康・医学情報」でした。自分の病気や体のことを図書館で調べたい一般市民の方が増えています。公共図書館でもそれに応えたいと力を入れ始めていますが、どういう基準でどんな本を入れたらいいのか、難しいところです。例えばものすごく専門的な質問が来たときに対処できない。だから、ここのような医学専用図書室と手を結んで情報を提供しましょう、という連携作りに、取り組んでいます。
 家族や知人が重大な病気になって、病院から説明を受けたものの、専門的でよく分からない。そういうとき公共図書館で調べられたら心強いですよね。最近では一般の人にも分かりやすい医療の本が増えていますので、それを公共図書館にもすすめています。多くの人に病気を理解してもらうことは地域医療の支援にもつながるんです。医師不足が深刻な今、自分たちで健康管理をして病気を理解し、その上で専門機関とつながる、そういう時代になって来ています。
 ここはこども病院ですから、子どもたちが退院後スムーズに学校に戻っていけるよう、学校図書館にも医学情報を提供します。周りでほんの少し配慮してあげれば、病気でブランクがあっても、子どもたちは普通に人生を送れます。そうやって公共図書館や学校図書館と手をつなぎ、病院と市民をつなぐのも、これからの司書の一つの役割だと思っています。

注)「平成21年度静岡市民意識調査結果」

取材日:2010.11



静岡県静岡市生まれ 静岡市在住


【 略 歴 】

1960 静岡市生まれ
1980 司書資格取得 東京都日野市立図書館就職
1993 静岡県立こども病院医学図書室就職
1995 わくわくぶんこ 開設
2003 医学図書室を開放して患者図書サービス開始
2006 ヘルスサイエンス情報専門員中級 取得(日本医学図書館協会認定資格)
2010 ヘルスサイエンス情報専門員上級 取得

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