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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

デザインからデジタル・アーカイブまで。
女性の視点を活かしたビジネスで社会と文化に貢献したい。

田嶋清子(たじま・きよこ)

田嶋清子(たじま・きよこ)



株式会社レ・サンク 代表取締役


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株式会社レ・サンク 

デザインを起点に「思い」をコーディネート

 レ・サンクは私と女性4人の外部協力者でスタートしました。5人で始めたので「レ・サンク」。「サンク」はフランス語で5という意味ですね。1991年に個人事務所を設立し、94年に株式会社へ組織変更しました。女性集団なので、女性の生活者的な視点を活かし、日常生活に近い飲食や化粧品などのパッケージ、看板、ロゴなどのデザインのほか、パンフレットやミニコミ誌などを手掛けてまいりました。
 設立当初は紙媒体が中心でしたが、お客様との関係性が生まれ、さまざまなご要望をお聞きするうちに、パッケージが並ぶ空間イメージや施設全般のVI(ビジュアル・アイデンティティ)を依頼されるようになりました。それで、ロゴマークなどのサイン計画、備品計画、広報計画、さらにそれらの実現まで総合的にお手伝いするプロデュース的な役割へと発展していったんです。単品のデザインからより経営方針に近いコンセプトデザインまで、事業領域が広がっていったわけです。
 例えば、福祉施設の立ち上げをお手伝いしたことがあります。立ち上げには、土地開発の専門家や設計士、建設会社など、さまざまな専門家が関わります。大きな事業になるほどタイムリーに決定しなければならない事柄が多く、現場では専門用語が飛び交います。そうしたなか、オーナーさんはコミュニケーションが難しくなる。そんな場面で私たちは「通訳」の役割を担うわけです。
 建設作業が進んでいくと、予算や納期、構造上の理由から、オーナーさんの当初の構想や思いが取り残されてしまうことがあるんですね。内装や外装、備品のイメージ統一、サービスの視点からの細かな要求について、オーナーさんは私たちを介して「こんなイメージにしてほしい」「あれはどうなってる?」とコミュニケーションをとっていきます。われわれはデザインのプロとして、建築の工程にできる限りオーナーさんの意向を組み込んでもらうための橋渡しをします。そんな役目を私は「思いのコーディネーター」と呼んでいます。施設の申請からオープンまで、100回を超える会議に参加するケースもあります。

仕事の要である質の高い人材育成のために


 私はレ・サンクを始める以前、司法書士事務所で15年ほど仕事をしていた経験があり、不動産取引主任の資格ももっています。レ・サンクの仕事のなかには、土地開発や法人設立の申請業務に関する知識が役立つことも多いですね。どんな経験も、志さえあればムダになるということはありません。
 一方、さきほどの事例からもおわかりいただけると思いますが、私たちの仕事は、専門的な知識とコミュケーション能力を兼ね備えた人材あってこそ成り立つものです。レ・サンクは継続的な経営を目指し人材育成に力を入れるために、2005年、ISO:9001に基づくマネジメントシステムを導入しました。デザイン会社としては静岡県初の取得です。
 ISO:9001に基づくマネジメントシステムでは、1年ごとに教育計画の立案と実行、改善が義務づけられています。当社では、技術や資格取得のための研修会に社員を参加させたり、外部講師を迎えた講座などを開催しています。スタッフにもさまざまな経験を積んでもらい、プロとしての見識を深め、より質の高い仕事をしてもらいたいと思っています。

デジタル・アーカイブの可能性にいち早く着目

 2001年に参入したデジタル・アーカイブは、今やレ・サンクを特長づける事業の1つです。「紙媒体はいずれ頭打ちになるだろう」という見通しは以前からありましたが、より直接的なきっかけは、静岡市立児童会館の閉館事業です。1957年に県の施設と設立され、63年に市へ移管された児童会館は、2003年、約50年の歴史に幕を閉じました。当社は、閉館にあわせて児童会館の記念誌をつくる仕事を受注しました。
 編纂作業をしながら気づいたのは、「これは絶対に捨ててはならない」というものがたくさんあるということです。聞くところによると、児童会館がオープンした当時は、全国各地から視察が相次いだとか。そう言われるだけあって長年の努力が手に取るようにわかる資料、いったん散逸してしまったら2度と再現できないような貴重な資料がたくさんある。「これはデジタル化して残すしかない」と直感的に思いました。
 展示品の一部は、新しくできる静岡科学館に収蔵されることになっていましたが、大部分は処分されてしまう。そこで市にお願いしまして、整理と保存、保存するもののデジタル・アーカイブ化を提案しました。
 正直、その時点で私たちのデジタル・アーカイブ分野での経験はまだまだという部分もありました。「先人の努力の結晶を残し、後世に残し伝えていきたい」という思いだけで、大変な作業に挑戦したわけです。スタッフの苦労は相当なものだったと思いますが、おかげさまで何とかやり遂げることができ、それが最初の一歩となったわけです。

文化遺産の保護と同時に身近な活用を目指す

登呂博物館のミュージアムショップ
 デジタル・アーカイブ化には、専門知識のあるスタッフが必要です。最先端のIT技術、文化情報編集・管理や知的所有権の扱いといった専門知識とともに、プロジェクトを完成させるまでのプロデュース能力が求められます。この分野は今後、間違いなく伸びていくという確信はあったんです。文化施設だけでなく、企業や個人まで幅広いニーズが見込まれるだろうと。
 それで2006年、取締役の1人を大学院に入学させまして、上級デジタル・アーキビストの資格を取ってもらいました。この人材投資は会社にとっても非常に大きな決断でしたね。同時に、私も含め他の社員にも準デジタル・アーキビストの資格を取得し、「新デジタル・アーカイブ事業」として県の認証も取り、この事業を本格的にスタートさせました。
 2010年10月にリニューアルオープンしました登呂博物館でも、収蔵図書のデータ化や展示グラフィックの制作など、当社のデジタル・アーカイブ技術が全館にわたって活かされています。なかでもミュージアムショップでは、デジタル・アーカイブの新たな活用法に挑戦しました。店内の3台の大型プロジェクターは、アーカイブからの関連情報が発信しています。また、ショップで販売しているオリジナルグッズにも、アーカイブのデータがフル活用されています。グッズの開発には学芸員の方々、市内のクリエイターや企業などと連携し、貴重な文化資産を身近に楽しんでもらう工夫をしました。
 デジタル・アーキビストの資格保有者を増やし、地域文化を守る担い手育成にも寄与しています。07年に準デジタル・アーキビストの養成機関となって以来、国立女性教育会館、静岡県男女共同参画センター、静岡市女性会館などで社会人を対象に資格取得講座を開催しております。
 静岡には文化資産がいっぱいあります。ただ、一般の人々がそれらを身近に楽しむというところまで行っていないのが現状ではないでしょうか。親しみやすい見せ方、活用できる方法などを考え、形にしてくのが私たちの仕事です。デジタル・アーカイブはその実現のために最も有効なアプローチだと思っています。

1人でも多くの人が「人生を諦めない」ために

 デジタル・アーカイブが活かせるのは文化財だけではありません。「人材」という何ものにも替えがたい「地域資産」をデータベース化することも可能です。その第一弾として、県の男女共同参画課の依託を受け、当社が制作させていただいているのが、この「さくや姫」プロジェクトです。
 静岡県を拠点に活躍する女性、もしくは拠点こそ他県や海外であっても、静岡出身というルーツを大切に活躍されている女性を、総勢160人ご紹介するのが「さくや姫」プロジェクトです。地元にこんな女性がいるんだということを広くお伝えすることで、「私も何かしてみたい」「一度きりの人生をもっと思い切り生きてみたい」と、ご自身の可能性を感じて下さる女性が増えてくれたらいいなと思います。
 実は私自身、起業がどういうことかよくわからないままレ・サンクをスタートしたんです。すでに家庭も子供もありました。約20年前になりますが、当時は「女性が起業する」ということが今ほど市民権を得ていない時代。公的な支援も相談窓口もありませんでした。しかし、どうしても自分の仕事が欲しかった。40歳を過ぎていましたが、「人生を諦めたくない」と思ったんですね。
 現実的に女性が起業するための第一歩は、家族の理解、もっと端的に言うと夫の理解から始まります。私の場合、どうしても夫の理解を得ることができませんで、強行突破というか、2人の子供の手を引いて家を飛び出したんです。いろんな困難も乗り越えて、ビジネスを続けていくことで「本気なんだ」ということを分かってもらうしかなかった。10年かかりましたが、今では何かと夫にも協力してもらっています。本当にいろんな人たちに助けていただいたおかげで、今日の自分があるのだと思いますね。
 私は現在、静岡県男女共同参画センター(あざれあ)の指定管理者であるNPO法人あざれあ交流会議の副代表理事を務めております。あざれあ交流会議は、女性の就業・育児支援などを中心に活動しています。
 女性を取り巻く社会環境は、20年前とは違う難しさ、厳しさがありますね。大学の新卒でもなかなか就職できない。ましてや離婚した女性が、子供を抱えて明日からの生活のための仕事を見つけることは非常に難しい。あざれあ交流会議の活動には、「1人でも多くの方が自分の人生を諦めないために何らかの協力がしたい」という思いがあります。
 レ・サンクは設立以来、ずっと女性だけの会社でしたが、今年から男性スタッフも増えました。これだけ世の中の雇用環境が厳しくなりますと、各人の能力を活かせる場が、男女関係なく求められているように思います。来年は起業20周年。新しいフェーズを迎えたレ・サンクが、社会に貢献できることはまだまだあると思っています。

取材日:2010.8



静岡県静岡市生まれ 静岡市在住


【 略 歴 】

1991個人事務所としてレ・サンクをスタート
1994 株式会社レ・サンクに組織変更
2005 ISO:9001に基づくマネジメントシステム導入
2006 「新デジタル・アーカイブ」で静岡県中小企業革新計画の認証取得
2007 デジタル・アーキビスト養成機関に認定
2008 NPO法人静岡県男女共同参画センター交流会議理事就任
2010 静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞受賞
静岡市歴史文化施設基本構想検討委員会委員

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