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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

ダイバーシティで地元企業との交流も活発に。
女性の力を発揮し、長く働き続ける環境作り。

株式会社損害保険ジャパン 浜松支店

株式会社損害保険ジャパン


浜松支店 担当部長(業務) 

喜田一弘(きだ・かずひろ)


- WEBサイト -

株式会社損害保険ジャパン

損害保険会社を支える女性たち


「株式会社損害保険ジャパン」は、100年以上の歴史をもつ損害保険会社です。現在、国内各地域に、営業部、支店が112カ所、営業課、支社、営業所が534カ所、事故対応を受け付けるサービスセンターは281カ所あります。全国各地に拠点がありますので、それぞれの地域性に合わせて、地域に根差したサービスをご提供できるよう、さまざまな取り組みを行っています。
 静岡県内には浜松支店と静岡支店があり、関連企業とも協力して「地域に対して親切な会社」を目指し、地域活性化の一端を担えるような活動も行っています。
 私が勤務している浜松支店には現在、約200人の従業員がいます。多少変動はしますが、男女比はほぼ同数。私たちのような、海外・日本国内を転勤する社員をグローバル職と呼ぶのに対し、地域ごとに採用される女性の多くがエリア職として活躍しています。
 損害保険業というと、交通事故にあったとき、その対応にあたるという印象をもたれると思いますが、そうした場合に窓口になるのが「サービスセンター」です。ここでは事故後の対応から保険金のお支払いまでを一貫してお受けしています。具体的には、過失の割合や双方の保険内容の確認、代理店への進捗状況の報告などがあります。
 一方、営業店では、それぞれの代理店への指導、育成をはじめ、商品内容の説明や事業展開に関わる業務を中心に手がけています。また、お客様から契約内容についてのお問い合わせも対応いたします。
 どちらも、一貫して、女性が関わる割合が非常に多いですね。

全社的に取り組む「ダイバーシティ」、制度の整備も

 損保ジャパン全体で女性の活躍推進が本格的に進められてきたのは、ここ10年ぐらいでしょうか。CSR(企業の社会的責任)として、働きがいと働きやすさのある職場、企業を目指していますが、その中でも「ダイバーシティ(多様性認容)」の推進があります。女性活躍支援、障がい者活躍支援、外国人活躍支援、ワーク・ライフ・バランスの実現など、文字通り、誰もが働きやすい環境の整備を目指しています
 特に、女性活躍推進を積極的にすすめているのは、時代のニーズに合わせるという背景がある一方で、この業界で働く女性の割合が多いこととも密接に関係しています。
 損害保険業におけるお客様への対応や代理店への指導など、どの業務も一朝一夕で務まる内容ではありません。専門知識や適応力など、仕事のなかで積み重ねてスキルを磨かねば身に付きませんし、そうした面を指導、育成することも、会社の重要な責務です。ですからライフステージによって働き方が左右されやすい女性が長く働きやすいように、両立支援制度などの改善に取り組むのも、当然といえば当然といえるでしょう。本来は自分の知識と技能を生かして定年まで働き続けられる仕事なのです。
 とはいえ、他業種と同じく、ある時期、古い体質も確かにありました。いわゆる「女性は結婚、出産を機に寿退社」という慣習ですね。しかし2002年に合併して「損保ジャパン」になって以降、せっかく育てた人材が結婚、出産、子育てといった節目に退職してしまうことに会社も危機感をもち、優秀な人材をとどめておくにはどうすればいいか、どうしたら働き続けられるのか、という視点で取り組みを始めました。
 例えば、エリア職として採用された社員は、配偶者が転居を伴う転勤をした場合、転居先で働き続けたいという意志があっても、退職せざるを得なかったのですが、損保ジャパンは全国にたくさんの支店がありますので、そのネットワークを活用し、配偶者が転勤した先でも働き続けられるよう制度を整えた、という例があります。知識をもち、働き続けたいという意欲をもった人材を定着させることで生産性をあげる、というところにスポットを当てた、当社ならではのシステムといえるのではないでしょうか。

結婚、出産後も働き続ける女性が多い浜松

 こうした制度や産休育休、育児短時間勤務制度等を利用して働き続ける女性は、増えていますね。特に、ここ浜松は全国的にも、結婚出産後も働き続ける意欲をもって仕事に取り組む女性が多い地域です。
 私は浜松に転勤になる前、愛媛県の支店におりましたが、復帰を前提に産休や育休を取得している、あるいは復帰後、育児短時間勤務制度を利用して働いている女性が、浜松では10人以上いるのに対し、前の職場では、今の浜松支店と同じくらいの規模にも関わらず1~2人にとどまっていました。これは職場環境や本人の意志、配偶者の収入等とも関係してきますが、前例が多ければ追随して受け入れやすくなりますから、浜松ではそういう働き方を受け入れる基盤や雰囲気ができているのでしょう。もちろん全国でも産休・育休の取得者数が増加してきていますので、今は愛媛でも状況が変わっているかもしれませんね。
 結婚、出産、子育てという経験は女性にとって大きな転換期です。その経験がプライベートのみならず仕事の上でも役立つはず――というのが、会社の考えです。例えば、これは私の個人的な印象かもしれませんが、事故にあって動揺しているお客様に「本当に気の毒でした、大変でしたね」と、事務的に言われる場合と、自分の身に置き換えて、子供のいる相手に共感した気持ちで言われた場合とでは、受ける印象はまったく違います。そういう意味でも出産子育てという経験をもっと職場に生かしてほしいと考えています。

同エリア異業種の「働く女性たち」と交流

 2002年、損保ジャパン本社に女性の悩みや意見を言い合える組織「ウイメンズコミッティ」ができ、女性活躍推進のためのフォーラムや定例会議などを進めています。ダイバーシティという言葉を使い始めたのは比較的最近ですね。私が浜松支店に赴任したのは2010年5月ですが、その前に長崎支店で第1回目を立ち上げたのが最初だと聞いています。
 2010年3月、本社から「地域交流会」という名前で、その地域の異業種の人を集めて交流の機会をもつ「地域ダイバーシティ」の取り組みを始めるということで、浜松支店にも声がかかりました。浜松支店にはすでに、育児短時間勤務制度などを活用して働いている女性が多かったのですが、当時の支店長には「この地域の他企業で女性たちがどのように働いているかを知る機会をもった方がいいのでは」という思いがありました。当たり前のように制度を使ってはいるけれど、その客観的な評価は案外わからないものですよね。
 地元の企業ということで、浜松信用金庫、遠州信用金庫、第一生命保険㈱浜松支社、㈱ホテルコンコルド浜松、日本興亜損害保険㈱浜松支店の各社にお願いし「第1回地域ダイバーシティ交流会」を2010年6月に開催しました。参加者は入社2~3年目の社員もいれば、ずっと仕事を続けてきてもうすぐ定年を迎える、という人まで、実にさまざまな顔ぶれがそろいました。
 最初は自己紹介から始まりましたので、どこかまだ踏み込んだ話はしにくそうではありましたが、2回目以降は参加企業が幹事を持ちまわりで行い、企画・立案。グループディスカッションやグループワークを重ねるごとに、それぞれの悩みを話せる雰囲気になっていきました。3回目に行われたパネルディスカッションでは、女性だけでなく男性社員や役員も出席。「仕事と家庭の両立を乗り越えるには」「仕事のモチベーションアップについて」などについて活発な意見交換を行うことができました。この地域ダイバーシティの取り組みは、昨年度で4回、今年度は1社を増やし7企業が参加しています。

地元を知っていることの強みを仕事に生かす

 この交流会は、参加した女性たちにとって、実り多い時間であるようです。他社でどのように女性たちが働いているかを知る機会は意外と少ないもの。参加した社員は、当社の「恵まれている点」を再確認できたようです。例えば当社のワーク・ライフ・バランス支援のひとつとして、最低月1回、全員が有給休暇を取ることになっていますが、その雰囲気ができていること自体、他社にはないのだとか。他社の方も同じく、会社への不満だけでなく、どう恵まれているかを再認識するきっかけになったという声が聞けました。結婚後も働き続けたいと考える女性はもちろん、そういう考えに消極的な女性も、意識を前向きにとらえられるようになったとの意見もあります。メンバーには結婚、出産、子育てを経験している方もいますから、そういう人からの体験談、助言が胸に響くのでしょう。
 グローバル職と違い、エリア職の女性たちは地元の人がほとんどです。しかし進学や就職を経て、同級生とのつながりが途絶えていることが多いんですね。今回の交流をきっかけに、偶然同級生との交流が復活したケースがありました。これはとても重要なことだと私は考えています。全国転勤をしているグローバル職が「地元浜松のために……」と言うより、エリア職として、地域に根ざして働く女性たち、この地域の人間性を理解し、人脈をもつ彼女たちこそ、真に「損保ジャパン浜松支店」を背負う担い手であるはずなのです。今、この地域で何が流行っていて、この場所で何をしなければならないのか、お客様からの意見もさることながら、長くこの浜松で生活し働いている人たちがいちばんわかるはずですから。
 異業種交流を機に、この浜松を見つめ直し、ここで自分たちがどう働くべきか、どうしたら地域活性化につながるのかを考えてほしい。交流会がその1つのきっかけになるはずです。

製造業の町浜松で、地域に貢献できる仕事を

 浜松は製造業の町として栄え、オートバイやブラウン管、ほうきなどの生産量が日本一です。昔は個人で家内工業を営み、大企業として発展を遂げたところも少なくありません。それを陰で支えた女性たちの苦労は並大抵ではなかったでしょう。浜松はそんな「工業の創世記」を支えた女性の流れを汲んでいるわけで、働き続けたいという女性が多いのも、そんな土壌に根付いたものがあるのかもしれません。
 ですから私は、浜松はその強みを発揮できる地域だと思っています。同時に、産休・育休を経た女性たちには、その経験を生かして欲しいと思っています。復帰後、例えば9時から5時までの勤務が3時までになっているのだとしたら、制約のある時間のなかで生産性を上げて仕事をこなす。短時間で効率よく仕事がこなせるような工夫ができれば、次に続く女性やもちろん男性にもいい影響を与えられます。それが本人のやりがいにもつながるでしょう。そういう意味では、時代も働き方も変わってきているのだから、何もかも会社任せではなく、積極的に会社へ、地域へと働きかけることも視野に入れてより活躍できると感じています。
 女性社員の仕事の1つとして提案したのが、浜松支店オリジナルのマスコットキャラクターの考案です。保険という形のないものを身近に感じていただくアイテムとして、女性で何か作ってみようと呼びかけました。彼女たちがデザインを考え、誕生したのが「うなぎのぼるくん」。地元のイベントなどでリーフレットを配ったり、ピンバッジを作ったりしています。自らテーマを考え、周りを動かして地域に貢献できる面白さを彼女たちにはどんどん味わってほしいですし、率先して新しいものにチャレンジしてほしい、また、できると思っています。

制度を取得させる側の理解と意識改革を

 これまでの日本男性の働き方とは、家庭を顧みず仕事に生きる、という姿勢で、そういう人達が評価されて役職についてきました。それが美徳とされた時代でしたから、その考え方が変わらない限り、ライフステージによって左右される女性が管理職となって活躍できないのではないか、とも思います。
 当社でも2回の産休・育休を取得した人がいますが、もともと経験も長く、戦力になっていた人だからこそ、堂々と休みが取れるのだろう、という印象を受けました。逆に言えば、産休を取るなら一定以上のパフォーマンスを発揮できている人でないと職場の同僚から歓迎されて取得するのは難しいのかもしれませんね。
 では、私がその人に対して休みが取りやすいような指導ができたかといえば……十分ではなかったかもしれません。今、男女共同参画などについて勉強し、気づきがあった私でさえそうですから、他の男性にはあまりそういう目線はないのではないでしょうか。だから、子育て中で時短を利用している人に「こっちは5時まで働いているのに何で4時で帰るんだ」という感情を持つ人がいる。若手社員には共働き夫婦が増えてきているのでそこまでの感情を持つ人も少なくなってきているかもしれませんが、本来なら「4時で帰ってちゃんと仕事が成り立つような指導」をすればいいだけの話なのです。
 今の時代、多くの企業が両立支援として育児や介護の制度を整えていますが、制度を整備することによって、こういう付加価値があり、これだけのメリットがある、というところへの理解を深めるところまでは、浸透できていないでしょう。その気づきをマネジメントすればいいのですが、それができる人は多くはいない。マネジメントの立場に対する教育はありますが、復帰した人に何を期待し、復帰後どういう方向で成長を促すのか、というところまでは、残念ながらまだ不十分でしょう。
 制度を利用して復帰しても、この仕事を効率よくやってくださいね、ではなく、9時から3時でできる範囲の仕事を与えられる。だから本人も「それでいいんだ」と思ってしまう。 私はむしろ、今までより難しかったり本人が成長する仕事を与え、その人の経験値でできる部分で仕事をこなしてほしい。そうすれば「私はこれだけやっているから3時で帰っていいんだ」と納得して帰れるはずです。そういった働き方をすることで職場の同僚の理解も得られることが、本人の充実感つながると感じます。

マイナス面をカバーし成長していける企業へ

「地域ダイバーシティ」は異業種交流の場として、これからも続けていく予定です。浜松でこういう機会は少ないので、他企業からも「次はいつですか」とお問合せをいただくんです。
 この浜松支店で言いますと、1営業店で年間36億円ぐらいの保険料収入をもっており、それを担っているのは20数名。うち、男性は5人ですから、いかに多くが女性の働きによるものかが分かります。だから、「うなぎのぼるくん」にしろ、うまく彼女たちの能力を生かしていければ、今以上の戦力になるはず。もっと地域に溶け込むにはどうしたらいいか、女性の意見を反映させてほしいですね。何といっても、地元を知っている強みが彼女たちにはあるのです。
 マネジメントする方がそれを理解し、ダイバーシティをどう生かすかといったときに、強みだけを発揮できればベストでしょう。時短や育休を利用する人が増え、人手が足りなくなるというマイナス面がどうしても表に出てしまいがちですが、それをどうカバーするか、また、限られた時間の中でどのように生産性を上げていくのか、育休を取得する社員以外にも良い効果を与えられる制度であってほしい。それによって社員の満足度も高くなるでしょうし、やりがいも出てくる。結果としていい会社に、いい方向へ成長していけることにつながるのではないでしょうか。
 2010年、浜松支店では地域ダイバーシティやワーク・ライフ・バランス推進における取り組みについて評価をいただき、知事褒賞を受賞しました。適材適所で女性が働き、女性たちの意志で新たな道を切り開く方向へ持って行ける、それができれば今後はもっと強く、地域に根差したいい組織になっていく。それが口コミで広がることによって、損保ジャパンという会社は今よりもさらに、この浜松というエリアに根ざせると信じています。

取材日:2011.9




【 沿 革 】

1888「東京火災」として設立
2002合併により「株式会社損害保険ジャパン」となる
「ウイメンズコミッティ」発足
2010「第1回地域ダイバーシティ」開催。同年度4回開催
男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞 受賞

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