さくや姫プロジェクト|トップページ

本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

出産、子育ての壁をゆとりをもってクリアする制度。
地域社会で、だれもが能力を発揮できる事業所へ。

生活協同組合コープしずおか

生活協同組合コープしずおか


フューネラル(葬祭)サービス担当

井出富一(いで・とみかず)


- WEBサイト -

生活協同組合コープしずおか

学習会を通じ、葬儀への心がまえを伝える

 私は現在、生活協同組合コープしずおかの「フューネラル(葬祭)サービス担当」として勤務しています。おもな仕事内容は、葬儀に関する学習会を開いたり、葬儀費用の見積りなどの事前相談、コープしずおかが提携する葬祭社に葬儀の依頼があった場合、ご遺族様にお悔やみの挨拶をしたり、実際の葬儀の内容について、ご遺族様に意見を聞いたりする、といったことです。
 コープの葬祭事業は5年前に始まりました。昨年、コープしずおかにご依頼いただいた葬儀は230件超。まだ組合員にあまり認知されていない状況でもありますので、今後さらなる拡大と普及をめざして、2009年に私、そして昨年にもう1人の女性職員がサービス推進担当者として配属になりました。私は入職以来、共同購入、そして「おうちコープ」で配送の仕事をしていたので、葬儀のことをまったく知らず、最初は戸惑う場面が多かったですね。
 もっともメーンとなる業務は、葬儀・家族葬についての学習会を開催することです。葬儀は基本的に友引の日には行われませんので、提携葬儀社と協力して、年間50回ほど開いています。この学習会は、コープしずおかの葬儀の取り組みを多くの組合員の皆さまにお伝えするため、また、「自分らしい逝き方」を提案する場として、私たちにとってもっとも大切な仕事のひとつとして、携わっています。
 といいますのも、葬儀というのは「縁起でもない」と、ある種タブー視されているところが多く、日常会話のなかにはあまり出てきませんよね。ですが、実際の葬儀となると、何も知らないまま、業者に任せきりにしてしまう方がとても多いのです。そして、それに不満をもっている方も非常に多い。
 ですので、人が必ず迎える「死」、あるいは、その先に発生する葬儀から目をそらすのではなく、きちんと知ったうえで、自分や家族が納得のいく最期を迎えられる準備、心づもりをしておきましょう、というのが、私たちのスタンスなのです。
 時代の流れなのでしょうか、前もって葬儀のことを知っておきたいと考える方が増えてきており、学習会には毎回多くの方にご出席いただき、好評をいただいています。

葬祭事業に携わりあらためて感じた家族の大切さ

 葬儀のイメージというのは、どうしても暗く悲しい。そして、葬儀業界というのは、なかなかオープンな雰囲気とは言えない面ももちあわせています。葬儀が終わるまでどれぐらいお金がかかるか知らなかった、というケースも少なくないんですね。
 でも、ご遺族にとっては、大切な家族を失って動揺しているときに、お金のことはなかなか聞けません。ですから、あらかじめ明確な料金体系を提示したり、相談しやすい雰囲気に変えていって、葬儀がご遺族や故人のためのものであることを強調していきたいと考えています。最近では、葬儀の方法も多様化しており、宗教が関係しない自由な葬儀、たとえば音楽葬などのような、お別れ会の形をなさるご遺族も増えています。また、そういった事例も多くの方に知ってもらえるよう、ご遺族のご協力のもと、葬儀が終わってから、ヒアリングをさせていただき、組合員向けの情報誌「Mio」に掲載したこともありました。
 私自身は4人の子供の父親です。長男はもう中学生ですが、長女は今年生まれたばかり。幸い、双方の両親も健在ですので、仕事として葬祭事業にかかわるまで、葬儀のこともあまり考えたことはありませんでした。ですが、この仕事に携わってからは、死というものについてしっかり考え、見つめていかなければならないという意識に変わっていきました。それは、やはり私の生活の基盤は家族だと、認識を新たにしたからでしょう。そして、これは家族をもつ方なら、だれでも同じ心境だと思うのです。

女性が多い職場、それを支え、受け入れる雰囲気

 私がコープしずおかに入職したのは1993年です。もともと人と接する仕事に就きたいと考えていたとき、コープしずおかのことを知りました。当時は共同購入が中心で、店舗にお客様に来ていただくのではなく、こちらから商品をお届けにうかがい、直にお客様と話をしながら販売できる、という形が面白そうだなと思ったのです。組合員様から注文をいただき、それを毎週、決まった日に配達するのです。最初は函南町の田方配送センターに配属になり、それから富士センター、沼津センターなどで共同購入の仕事に従事しました。
 当時から正規職員の人はもちろん、パートまで含めると、女性の多い職場でしたね。私もそんな彼女たちの働く様子を目の当たりにしていましたが、女性がいきいきと働ける環境だっと思います。たとえば、女性はどうしても出産・育児でキャリアが中断されるという壁につき当たりますが、コープでは結婚後、子育てがある程度一段落すると職場に復帰する人が少なくありません。一例として、2007年度は、子育てのために4人が時短制度を利用し、男性1人を含む5人が育児休職を利用しているという実績もあります。
 それを受け入れる雰囲気も職場にあります。今、同じ職場にいる男性職員のなかにも共働きの人がいますが、夜勤の妻に代わって子供の弁当を作ったり、交代で食事を作っている、という話をしょっちゅう聞きます。女性の仕事を支えるために全面的に協力している男性も、同じくらい多い職場なんです。
 最長8年という育児休職制度や、時短制度、そしてそれらを取得しやすい社風が、多様な働き方を可能にしているんですね。組織にとってもそれがプラスになると判断しているということだと思います。能力のある人が男性女性に関わらず働き、それが評価されるよう、制度的なものも整えるのが会社の責任だと思っています。
 そしてなにより、共同購入やおうちコープ、そしてコープの各店舗を利用される組合員様も、圧倒的に主婦が多い。ですから主婦の視点がとても大事です。子育て中の人の意見を反映できる機会を、組織が整えることは、自然な流れなのだと思います。

少年野球を通じて、子供の成長を育む役割

 私自身はといえば、最近よく言われる「カジダン」「イクメン」というところまでには、残念ながらなかなかなりきれていないと感じています。勉強会は前もって予定がわかりますが、コープが提携している葬儀社で葬儀があった場合、お悔やみの挨拶に行ったり、葬儀や通夜の現場を見たり、あるいは葬儀が終わった後にご遺族様や関係者の方に挨拶をしたり、話を聞いたりするという仕事は突発的ですし、必ず毎日定時に帰れるということがほとんどできません。ですから、普段の家事や育児はほぼ妻に任せきりです。
 ただ、子供が所属する野球チームには、長年深く関わっていますね。これは半分私の趣味でもあるのですが、長男が小学校で沼津市の「門池少年野球団」に入った2003年以来、少年野球の指導が私の生活の一部になっています。私自身、小学校から高校まで野球を続けていた経験者でしたので、初めはコーチ、そして3年前からは監督を務めています。
 普段、子育ては妻に任せきりなのですが、このときは子供としっかりと関わっているという実感があります。少年団というのは、野球を楽しむ、試合に出るという本来の目的以外に、礼儀やマナー、しつけを通じて成長していく、あるいはチームのなかでいろいろな人との関わり方を覚えていく場でもあるんですね。たとえば道具を大切にする、挨拶をきちんとする、といったような。私自身もそういうことを、野球を通じて学んできましたので、同じように教え、伝えていかなければいけないという使命感のようなものをもっています。それは子育てのなかでも、とても大切な部分だと思うのです。
 同時に、私自身もまだまだ子供っぽい、大人になりきれていないところがあると、あらためて自分自身をかえりみることもあるんです。私はチームのなかでは監督ですが、家に帰れば息子たちの父親なんですね。でもつい、家でも監督としての立場を引きずったまま子供たちと接してしまうこともあって、ちょっと言い過ぎたかな、と反省することもしばしばです。自分自身でも葛藤しているんですよ(笑)。
 もしかしたら「イクメン」とは言えないのかもしれませんが、野球という共通項で子供たちの成長を支える、こんな形もありなのではないかと思うんです。

若い世代に広がる「男も女も、働き育てる」価値観

 私は40代ですが、20代、30代の若い世代を見ていると、結婚して家庭をもった男性も、仕事から帰れば家事をしている、赤ちゃんのめんどうを見ている、小学校や幼稚園の参観日に夫婦で出向くという話をよく聞きます。配送センターにいた頃、結婚していく若いスタッフと話をしても、家事も育児もあまり抵抗がないようでしたから、これからの世代は確実に意識が変わってきていると感じますね。家事をしながら、また、子供の幼稚園や学校の行事などもうまくバランスをとりながら、男性も女性も働いていく。これはコープしずおかだけではなく、他の企業などでも同じではないでしょうか。
 また、コープしずおかは確かに「女性が働きやすい」職場ですが、私は女性だけのことではなく、男性も「働きやすい・利用しやすい」ことにつながってくることだと思っています。独自にセクハラガイドラインを設けており、学習会なども開いています。また、内部通報や相談窓口を設け、匿名で相談できるシステムも整っています。こういったことは男性女性に関係なく、働きやすい職場をつくるということにおいて、働く人すべてをバックアップしていることの表れでしょう。
 この取材を機に、今、子育てで休職中の妻に、私の「男女共同参画度」を聞いてみたのですが「仕事や趣味に専念できるのは、家族の協力があってのことだということを、忘れないでほしい」とのこと。まったくもってその通りです。感謝は日々、忘れないように、そして、掃除や洗濯など、毎日は無理としても、できるときには協力していこうと思います。
「生活協同組合コープしずおか」は、1949年に設立。現在、静岡県下24店舗での小売販売を展開するほか、12ある配送センターを拠点とした共同購入・個人宅配「おうちCO-OP」の受注、手配、配送等を行う。協同組合の名のとおり、利用者は「組合員」として運営を支える形態をとる。食品や日用品、共済、葬祭事業を中心に、地域の消費者の生活に必要とされる商品を提供することを信条としており、オリジナル商品のほか、自主基準を設けクリアした安心・安全な商品を供給・販売している。
 職員数は2569人。そのうち女性が2032人であり、パートタイマーを含めると全雇用者の約8割を女性が占める。また、店舗などを利用する組合員のほとんどが女性であり、文字通り女性に支えられている事業所である。そのため、「女性が働きやすい・女性が利用しやすい」社会を作り上げる社会的義務があるとし、男女共同参画にも積極的に取り組んでいる。
 たとえば、人材育成や積極的な登用をすすめる取り組みとして、1987年より「キャリア開発プログラム(CDP)に基づく人材育成の推進」を実施。職員1人ひとりの能力が的確に発揮されるよう、成長を支援している。女性管理職はもちろんのこと、パート職員についても同じように能力発揮を促しキャリア職として登用している。現在、正規職員の女性管理職は3人、女性パート店長についても3店舗で登用するほか、キャリア職パートも151人が活躍中である。
 また、女性がキャリアを積むうえで避けて通れない結婚・出産・子育てについても全面的なサポートをしている。育児休職制度が、法律では「子が1歳に達するまでの連続期間」と定められているのに対し、コープしずおかでは「小学校就学前まで、再出産含めて通算8年間」としている。同じように介護休職についても、法律で3カ月と定められているところを、1年間取得できる。
 制度以外に、セクハラガイドラインの制定や学習会、相談窓口の設置など、職員の意識改革にも努めている。
 2007年、静岡県の「男女共同参画社会づくり宣言」事業所として登録。当時、静岡県内では125業者・団体が登録していたが、コープしずおかが「食品小売業」として初めての登録となった。これらの取り組みが評価され、翌年「平成20年度静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞」を受賞した。


取材日:2011.8




【 沿 革 】

1949「静岡民生生活協同組合」設立
1953「静岡生活協同組合」に名称変更
1968共同購入開始
1988「生活協同組合コープしずおか」スタート
2003「セクシャルハラスメント防止に関するガイドライン」策定
2006「おうちCO-OP」開始
葬祭事業開始

一覧に戻る(前のページへ)