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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

地域の仲間と子供を見守る「プレイグループ」。
子育てに悩む親の社会性を育み、地域力も生む。

久田真奈子(ひさだ・まなこ)

久田真奈子(ひさだ・まなこ)



子育て支援活動「プレイグループなめり」主宰



イギリスで「プレイグループ」に参加して

 私のこれまでを振り返ると、人生は旅から旅へという感じですね。長泉町で育って、東京でボランティア活動をしていて知り合った主人と結婚して。それからは夫の仕事の都合で国内外を転々とし、長男は小山町、長女はイギリス、次女は長崎で出産したんです。
 長男を出産するときは、自分の人生は始まったばかりで、これからどうなっていくのかなと思っていましたね。周りに知り合いがいなくて不安もあったのですが、勤めていた知的障害者施設のみんなが受け入れてくれたんです。私のお腹が大きくなっていくのも見守ってくれていたし、生まれてから子供にミルクをあげるのも見ていてくれました。園生の前でドレスを着て、模擬結婚式をしてもらったりもしたんですよ。
 イギリスでは3年ほど過ごしたのですが、現在行っている「プレイグループなめり」の活動や、子育てについて考える上でこの期間は大きな転機になったと思います。私は、チャイルドマインダーという、日本で言う保育ママさんに長男を週3回預けていたんです。それで午前中は自由に使える時間ができ、おかげで英会話学校に通ったり、買い物をしたり、友達とお茶をすることができたんです。プレイグループについて知り、長男と参加したのもイギリスでのことです。プレイグループとは、週に2度、地域の集会スペースに子供と保護者が集まって子供を遊ばせたり、親同士が交流できるという制度のこと。イギリスでは全土にあり、その他の英語圏でもポピュラーな存在なんです。子育てには様々な考え方があり、親が子育てをするべきだという意見もありますが、私は地域のみんなで子供を見守る、プレイグループのやり方がいいと思っているんです。だから、実家のある長泉町に戻って子育ても一段落したとき、自分もプレイグループを始めてみようと思ったんです。

地域の仲間で子供を見守るための活動を

 プレイグループなめりのコンセプトは、“親戚のおばちゃんち”(笑)。子供たちが自分の家で食べたことのないものでも「おいしいよ、食べな」と言って否応なしに出しちゃう。いいことをしたら褒める。叱るときはちゃんと叱る。私が大きな声で「こらー誰だ、石投げたのはー」なんて言うと、怒られた子は緊張した顔をしますよ。まさに、ちょっとお節介な親戚のおばちゃんですよ(笑)。
 子供たちは、オモチャで遊んだり、絵を描いたり、本を読んだりするほか、夏はプールで遊んだり。公会堂の隣にある公園で遊ぶこともできます。公会堂内に台所があるので、ほぼ毎回おやつも出しています。我が家の畑で収穫したサツマイモをふかしたり、カレーうどんを作ったり、クリスマスにはケーキを焼いたり。町内の出前講座を利用して食育の会食をしてもらったりすることもありますね。
 活動を始めたのは2007年のことです。納米里地区の公会堂を無料で借りることができたほか、一人ひとりに付ける名札作りなどにかかる消耗費をいただいたり、地区のボランティア保険に入ることもできました。今は週1回、木曜日の午前中に活動しています。毎回50人くらいの方が参加し、年間だと1600人ほどになります。参加費は無料で、食べ物を出す場合は実費として100円程度をいただいています。
 お願いしているのは、車で来ないこと。あと、納米里地区に住んでいる人に限らせていただいています。というのは、歩いていける範囲に住む人たちが集まることに意義があると思っているからなんです。近所のスーパーで顔を合わせたら「元気?」と声を掛け合ったり、みんなが子供たちの名前を覚えている環境の中で成長を見守れたらいいなと思うんです。そうすれば孤立してしまう人も減るんじゃないかなと。現在、プレイグループの活動は、納米里地区のほか、国立がんセンターがあり子供が増えている下長窪地区でも行っています。「久田さんがあんまり楽しそうだから」と言ってくださった方が始めてくれたんですよ。プレイグループなめりのスタッフも同じことを言ってくれて、みんなで楽しく活動しています。

子と親の社会性が地域力となり還元される

 プレイグループなめりには、本当に様々な人たちが集まります。転勤族で友達ができずに来る人や、実家暮らしだけれど孤独を感じている人。障害のある子供を持つ人もいますし、育児に疲れてしまったおじいちゃんやおばあちゃんが来ることもあります。泣きながら悩みを打ち明ける人もいるのですが、私たちにできるのは寄り添い、「つらいね」「そうだね」と話を聞いてあげることだけなんですよね。ここでは、助けが必要な人や不安を感じている人が、子育ての先輩や同じ悩みを持つ仲間とコミュニケーションをとるなかで少しでも楽になってくれればいいなと思っています。
 一方で、この活動を始めたばかりの頃に来ていたお母さんが、子供が大きくなってからも遊びにきてくれたり、帰国した外国人のお母さんが、この場を懐かしがってまた遊びに来てくれたりすることもあるんですよ。そんなときは本当にうれしいですね。そんなふうに絆が生まれれば、それが力になると思うんです。
 プレイグループという活動を通して、子供たちや子育てをする保護者を地域全体で見守り、支え合っていくことが、誰にとっても平等でフェアな形だと私は信じています。私にとってはそれが心地よかったから、これからもその信念を貫くつもりです。この活動をもっと多くの地域に広げたいと考えているので、最近では、県東部地域の懇談会で子育て支援の関係者と話をすることもあります。プレイグループなめりの活動は、今は完全なボランティアなのですが、より幅広く活動をしていくためには今後、組織化することも考える必要が出てくるかもしれません。それでも、この活動を通じて親や子の社会性を育んでいくことが地域の力となり、それがまた子供たちへ還元されていくと思うので、頑張っていきたいなと思っています。

取材日:2011.2



静岡県富士市生まれ 駿東郡長泉町在住


【 略 歴 】

1982 東京都新宿区手をつなぐ親の会のボランティアに参加(~1986)
1986 駿東郡小山町にある知的障害者者施設に勤務(~1988)
1987 長男出産
1989 夫の仕事のため、イギリスに滞在(~1992)
1990 長女出産
1994 夫の仕事のため、長崎県に滞在(~1998)
1996 次女出産
2007 子育て支援活動「プレイグループなめり」主宰
2010 平成22年度男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞受賞

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