さくや姫プロジェクト|トップページ

本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

絵本を通じてコミュニケーションをより豊かに。
その思いから、数々のユニークな作品が誕生。

スギヤマ カナヨ

スギヤマ カナヨ


絵本作家



20代の頃はデザイン性重視の絵本を制作

 デビュー作の『K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、実は大学の卒業制作で作ったものなんです。若気の至りというか、当時は大人向けの、デザイン性の高いものを作りたいなんて思っていて。ファンタジーを生むには、どれだけリアリティのある嘘をつけるかが肝心。そこで敢えて、図鑑という体裁にしてみました。本物の図鑑だと思って買ってしまった方もいらっしゃったみたいなんですけれど(笑)。
 作者名を“K・スギャーマ”としたのは、ちょっとしたいたずら心です。私は子供のころ『ドリトル先生』が大好きだったのですが、本を閉じて作者の名前を目にすると、現実に引き戻され、淋しくなりました。その名前が、主人公のスタビンズ少年もしくはドリトル先生だったらいいのに、なんて思っていたんです。だから、私の本では読み手にその世界を存分に楽しんでほしくて、私の名前はどこにも入れませんでした。
 20代の頃は、夫と二人でニューヨークにいた時期があるんです。彼はデザイナーで、私の本もすべてデザインしてくれています。2年間、ほぼ24時間一緒に過ごしたんですが、その時間は本当に得難く、貴重なものでしたね。お互いに感性を働かせて共同作業をすることで、作品づくりにもいい影響を与えてくれたと思います。やはり制作環境は大事で、作品づくり自体は孤独な作業なんですけど、いい環境に身を置くと安心してその孤独の中に入っていくことができます。そして、いつでも戻ってくることができるんです。
 帰国してから出版したのが『ゾウの本』『ペンギンの本』『ネコの本』です。写真を使わない図鑑を作りたいというお話があって生まれたんですけど、絵本だったら、お勉強という感じがなくなってとっつきやすくなるかなと思ったんですね。子供たちがもっと気軽に本を手に取っていろんなことを知り、好きになれば、それを守ることに繋がると思うんです。だから、隅にパラパラ絵本を入れたりと、子供が楽しめる仕掛けも考えました。大変だったのは、ノンフィクションですから嘘は許されないこと。様々な学説を検証したり、参考文献は200冊以上読みましたね。

子供が生まれて読み聞かせの大切さを実感

 子供が生まれてからは、小さい人たちに向けての本が作りたくなりました。子育てをしていると、それまで気付かなかった発見がたくさんあるんです。驚いたのは、娘が2歳になって言葉が出はじめたとき、「これ、赤ちゃんのとき読んでもらったよね」と0歳の頃に読んだ絵本を持ってきたとき。赤ちゃんはアウトプットできていないだけで、どんどんインプットはされているんですよね。その時期のコミュニケーションがすごく大事だと実感しました。
 私は、子供にはいろんなジャンルの本をまんべんなく与えるようにしているんです。図鑑や自然科学、写真絵本。日本の昔話、外国の本。3週間で60冊くらい借りてきます。いわゆる離乳食みたいなもので、子供がペロリペロリといろんなものをちょっとずつ味見しながら、好きなものを見つけてくれればと思っているんです。大人はその手伝いしかできないので。
 今、娘は10歳、息子は3歳なんですが、読み聞かせはずっとしています。普段は息子にかかりきりで娘は後回しになってしまっている分、娘との本の時間は“ざんげ”のようなもの。寝る前の30分間、たとえ怒っているときでもプリプリしながら(笑)毎日欠かさず続けています。読み始めれば、どんなときでもお互い気持ちが落ち着きます。このひとときは大事なコミュニケーションの時間で、普段小言ばかり言っていても読み聞かせをすることで、1日をお互い気持ちよく終わらせることができるんです。
 娘は一人っ子だった時期が長かったためか、弟が生まれたときに葛藤のようなものがあったみたいなんです。それが、だんだんと自分のスタンスが決まってきてお姉ちゃんらしくなってきた。『あかちゃんがうまれたら なるなるなんになる?』はまさにそんな心の成長を扱った本。「おかあさんは私と赤ちゃんのおかあさんになる」「私のものは赤ちゃんのものになる」と、いろんな「なる」を経て、「私たちはどんどんきょうだいになるなる」「4人家族になる」というお話です。本当の意味で「なる」には、いいことも悪いことも積み重ねてなっていくんだというメッセージが込められています。

コミュニケーションツールとしての絵本

 私が小さい人たちに向けて作った本には、道徳的、教育的な要素は皆無なんです。一貫しているのは、親子のコミュニケーションツールとして楽しめるものであるということ。『いっしょにごはん』は親子が本を挟んで向かい合い、食べっこをする本なんです。食べ方や遊び方の解説書も付いています。「最初におにぎり食べようね」「熱いから気をつけてね」と声をかけたり、お皿のものを交換したくなれば、本をひっくり返したり。会話をしながらでないとすすめないので、子供と本を使ったコミュニケーションがうまくできないという人でも自然と入り込めると思います。
 『ほんちゃん』は本そのものが主人公になった絵本。立派な図鑑になりなさいと言われている「ほんちゃん」が、立派な本になるための修行をするお話です。最初は音がでたり絵が動いたりする「かっこいい本」に憧れるのですが、だんだんと大事にしてもらえる本がどんなものか理解していくんです。「電子書籍へのアンチテーゼだね」なんて言われたりもしますが、そんなつもりではないんですよ。本は友達になってくれる、という思いを伝えたかったんです。私は、子供たちに今いろんな本に出会ってほしいんです。大人になったときに「懐かしい」と思える本が一冊でもあると、きっと昔の友人に再会するような親しみを感じ、同時にそこに当時の様々な記憶や思いが詰まっていることに気付くでしょう。そんな感覚を子どもにプレゼントできればいいなあと思います。そういう気持ちは大人になってからでは得られませんから。
 近年は、小中学校などで出張授業をすることもあります。他にも、講演やワークショップなどいろんな活動をしていますね。授業では、子供たちにお気に入りの本になりきってもらい、自分だけの「ほんちゃん」を作ってもらったりしています。「ぼくは人気者でいつも借りられてるからほとんど図書館にいないんだ」なんてそれぞれが想像して書くんです。おもしろいですよ。別の立場に立って視点を変えると、見えるものも違ってきます。そういうことは日常生活の中でも大事で、生きる力に繋がっていくと思うんです。絵本でできること―そんな、本の可能性を私自身も日々実感しています。

取材日:2011.1



静岡県三島市生まれ  東京都在住


【 略 歴 】

1990 フリーランスの絵本作家として活動スタート
1991 『K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館)を出版
1993 渡米。アート・スチューデント・リーグ・オブ・ニューヨークでエッチングを学ぶ
1995 帰国
1997 『ペンギンの本』(講談社)が講談社出版文化賞を受賞
『K・スギャーマ博士の植物図鑑』(絵本館)出版
2003 『ぼくのおべんとう』『わたしのおべんとう』(以上アリス館)出版
2007 『山に木を植えました』(講談社)出版
2009 『ほんちゃん』 (偕成社)、『あかちゃんがうまれたらなるなるなんになる?』(ポプラ社)出版
2010 『あかちゃんはおかあさんとこうしておはなしています』(赤ちゃんとママ社)出版

一覧に戻る(前のページへ)