挨拶とマナーで印象が決まる
ここ10年くらい、高校生対象にマナー講座を開いています。1〜2年生は「働く」ことの意識啓発。3年生は就職前の面接指導や、内定者向けに社会人として必要なコミュニケーションやビジネスマナーを教えています。
学生は勉強や部活に一生懸命ですが、社会で必要な挨拶やマナーはあまり知りません。私の講座は実践を多く取り入れています。というのも、内定して最初に挨拶がきちんとできれば「やる気のある若者だ」と思われますが、挨拶の仕方も知らないまま「手のかかりそうな若者だ」と思われるか、最初が肝心なのでお辞儀や言葉遣いなどを実践するのです。たとえば200人くらいの生徒が最初はバラバラだったのが、講座が終わる頃にはビシッとお辞儀がそろうと、やりがいがあったと思います。
私が指導している事は「どの職業でも、どんな方にお目にかかっても、最初の印象が大事」だと伝えること。仕事だけでなく、人生これから50年、60年生きていくためにマナーは「パスポート」のようなもの。学生時代は意識しなくても身につけておけば、社会に出た時、必ず良かったと思うはずです。
セールスで知った、ビジネスマナーの大切さ
とはいえ、私も最初から心得ていたわけではなく、働きながら身に着けてきたことです。
私は最初、三保園ホテルに経理のパートとして就職しました。一年ぐらいで正社員になりましたが、最初は経理のことだけで精いっぱい。でも慣れてきて、効率や段取りを考え、時間に余裕が出てくると、空いた時間は前のデータを見るなどして、自分なりに必要なものを蓄えました。それが認められて10年で経理主任、その3年後に経理課長、さらに3年後に副支配人になりました。偉くなろう、バリバリ仕事をしよう、という気はまったくなかったけれど、つねに自分は今、何をすべきかを考え、勉強しました。猫の手も借りたいほど忙しいときなどは掃除から皿洗い、料理のお運びまで、何でもやりましたよ。
中でも一番大きかったのは、セールスを経験したことです。経理の責任者なので、資金繰りを少しでも楽にしたい一心で、自らセールスを買って出たのです。当時、東北新幹線が盛岡までつながったときで、何とかして東北からお客様を呼べないかと、盛岡まで出向きました。経理的な視点からすればできるだけまとまった数のお客様にいらしてほしい。そこで現地のバス会社を訪ねました。私はマーケテイングや営業のプロではありませんから、独自の考えと経理の視点で働きかけができたのです。
女性一人で飛び込みで営業というと、なかなか話を聞いてもらえませんが、お願いしたいと思ったらあきらめない、ただし相手の状況を考慮し、なるべく印象に残るよう心がけました。そのとき、好印象を持ってもらうのに役立ったのが「ビジネスマナー」です。
こんなことがありました。セールスの途中、東北新幹線で、団体のお客様が乗っていらっしゃいました。たまたま隣に座った男性が私にビールを勧めてきたのです。お酒は飲めないのでとお断りすると、おいしい柿の種を下さって、私は「おいしいですね」と話し、持っていたパンフレットをお渡ししました。実はその方は小千谷市の市会議員の方で、ほどなく、本当に小千谷市からお客様がいらっしゃったのです。
その時、私が話しかけられて不愉快そうな顔をしていたら、つながらなかったかもしれない。だから、学生には「どこにご縁があるか分からないから、どんな場面でも印象よく、最低限の礼儀は守っておくように」と話しています。
努力の後に評価がついてくる
今は様々な業種の企業からご依頼があります。建築関係の会社からお話をいただいた時は驚きました。テーマが「あなたの礼儀作法が、会社の運命を左右する」でした。どんなに技術が優れていても、現場でお客様に接するときの印象が悪ければ、リピーターにはなっていただけません。トップが立派でも、お客様と接する現場の人が好印象でなければ、評価が落ちる時代です。
ほんの小さなことでチャンスに結びつくか、印象ひとつでチャンスを逃すか分かれてきます。学生は自分の能力や資質、持ち味等いいものを多く持っていますが、それを活かして将来につなげるためには、周りの方に好感をもたれることが大事です。教えてやろう、引き上げてあげようと思われるために、マナー、いわば「知恵」が必要なのです。そのため基本をしっかり身につけるよう話しています。
私自身は、上の立場になろうと考えた事は一度もありませでした。努力の後に役職がついてきたのです。どんな仕事でも、仕事に打ち込む姿勢で人生が変わると思います。
取材日:2011.1