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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

裁判ではなく、話し合いで解決するADR。
対話し歩み寄る姿に、人間の可能性を見る。

芝知美(しば・ともみ)

芝知美(しば・ともみ)



芝司法書士事務所 所長
静岡県司法書士会調停センター“ふらっと”事務長


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芝司法書士事務所
対話のチカラ
静岡県司法書士会調停センター“ふらっと”

当事者が話し合いで紛争を解決

 新聞やニュースで「ADR」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。争いごとを、裁判所で裁判官が白黒つける「訴訟」という手続きではなく、裁判外で紛争を解決する、という手段です。ADRにもさまざまな種類があるのですが、私が研究している「メディエーション」という方法は、当事者同士が同席し、二人の話し合いでもめ事を解決します。もともとアメリカが発祥で、ヨーロッパなどではすでにかなり普及しているのですが、日本では2007年に新しく法律ができました。

 2003年に司法書士試験に合格し、テレビで見た訴訟での紛争解決に疑問を持ちました。誰かに決めてもらうことで解決することも、もちろん世の中にあるし、だからこそ裁判や法律が必要ですが、決めてもらった後も当事者同士はその中で生活していかないといけない。裁判で表面上は解決していても、実は解決していないこともある。だから、もっと当事者同士が納得した上でこれからどうしていくかを考え、考えた先に解決があるのではないか…。

 その後、司法書士の新人研修でADRを知りました。以来、話し合いの方法や調停の進め方を勉強したり、普及のために各地の講師に出向いたりしています。当初は一人で研究していましたが、幸い静岡は司法書士の活動がとても活発なところ。今では熱心な仲間も増えました。2009年、静岡県司法書士会で「調停センター“ふらっと”」を立ち上げ、私は事務長をしています。

コミュニケーションを持つことの大切さ

 分かりやすい例でいうと、ある人が業者からお金を借りていた場合、業者に対して裁判を起こせば裁判所で白黒つけてもらって解決するほうが早いし楽だけど、相手が近所の人や知り合いの場合、裁判にすることで噂になったりするので、言い出しにくい風潮がありますよね。裁判で決まっても、近所だと顔を合わせにくいものです。「ふらっと」の需要も、何らかの関係性が続く場合に使われたり、町内で大ごとにしたくないけれど、解決しなければならない、といった場合に使われることが多いです。

 話し合いで解決するということは、最終的にはコミュニケーションをどうしていくかという問題になります。今の世の中、コミュニケーションの必要性が叫ばれていて、私自身も司法書士として働く中で、その大切さを強く感じています。実際“ふらっと”で扱う案件の中でも、コミュニケーションが不足していたからもめてしまった例、言えば伝わったのに文書だからニュアンが伝わらず冷たく攻撃的にとられてしまった例がたくさんあります。

 口下手でも話し合うことで未然に紛争が防げること、話し合えばわかることも少なくありません。みんな仲良くなろうということではなく、例えばもめている隣人と、仲良くはなれないかもしれないけれど、お互い話し合った上で心地よい距離感を決め、それを保てるなら、誰かに決めてもらうよりずっといいはず。そのためにも話し合う努力をしてみる、その一歩がADR、メディエーションだと思うのです。

自分たちで解決へ向かうための、導き役

 私が司法書士としてメディエーションに関わる一番のやりがいは、人の可能性を感じられることでしょうか。最初はもめていても、話し合いをする中で、少しずつ歩み寄ろうという姿勢になってくるのです。

 当事者は同席して話し合いを行いますが、話し合いのテーブルに着く前に「ふらっと」はこういう方法で話し合いをする機関ですという説明を詳しくした上で、実際の話し合いに進みます。最初は意見に食い違いがあっても、両者の「解決しなければならない」気持ちは同じなのです。調停人である私たち司法書士は、あくまでも中立の立場。判断や評価をせず、両者の言い分を聞き、整理する役割を担います。そうすると、口下手な人でも「誰かに決めてもらおう」ではなく「自分たちで解決していこう」と心を動かしていきます。こうして人が変わっていく様子は本当に興味深いし、すばらしいと感じます。

 すべてのものが解決できるわけではありません。ただ、こういう風に話し合いで解決できる場が今までなかったこと、そしていったんもめてしまうと、最終的に気まずいまま終わってしまうことが多かったことを考えると、一つの新しい方法として、メディエーションを知っていただければ。その普及のため、“ふらっと”では今年、メディエーションの実務本(民事法研究会)を出版する予定です。これからも“ふらっと”の仲間といっしょに、メディエーション、そして誰かとコミュニケーションをとる「対話の文化」の大切さを広めていきたいと思っています。

取材日:2011.1



静岡県静岡市生まれ 静岡市在住


【 略 歴 】

     
2003 司法書士試験合格
2005 司法書士登録
2009 静岡県司法書士会 調停センター「ふらっと」事務長就任

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