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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

私にできることはチームの雰囲気づくり。
相手の立場に立った介護をみんなで実践。

樋田教衣(といだ・のりえ)

樋田教衣(といだ・のりえ)



社会福祉法人 聖隷福祉事業団
介護付有料老人ホーム「浜名湖エデンの園」
居室サービス課 係長


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浜名湖エデンの園
聖隷福祉事業団

お年寄りとの触れ合いから、福祉の道へ

 福祉の分野を意識したのは、高校卒業後の進路を考えたときのこと。母が教師をしていたので、はじめは教育分野に興味を持ちました。母には、いろいろと調べてみて自分が関心を持ったことを学べばいいとアドバイスを受けたんです。それで自問自答してみたり、学校の進路室で資料を調べたりしました。そうすると、私がやりたいのは教育ではなく、福祉なのかな、とピンときて。私の地元である三ヶ日町では、お年寄りがとても身近な存在。近所のおじいちゃん、おばあちゃんと気軽に挨拶をしたり、野菜をもらったり。両親が共働きだったので、祖父母のみかん畑に妹と一緒に連れて行ってもらって遊んだ思い出もあります。自然があって、周りにはお年寄りがいて。そんな触れ合いがあったので、仕事でもお年寄りとゆったりと過ごせたら、と考えるようになったのだと思います。それで、卒業後は社会福祉学部のある四年制大学に進みました。
 大学では、老人介護の分野を専門とするゼミに所属し、友人と切磋琢磨しながら勉強しました。恩師に「働きながら取得するのは難しいから、一発勝負のつもりで頑張れ」と励まされ、社会福祉士の資格も取得しました。社会福祉士試験は13科目の試験があり、合格率も30%くらい。今となっては、学んだ内容が相談業務やコーディネーター的な業務を行う際に役立つので、頑張った甲斐がありました。

脳トレの提案、ケアプラン立案、身体介護と充実の日々


 大学卒業後に、社会福祉法人聖隷福祉事業団に就職。現在の有料老人ホームに配属されました。最初は、一般入居者の身の周りのお世話をする職場。歯磨き、入浴、掃除、服薬管理など全体を広く見渡し、トータルなケアをすることが役割でした。その後は、施設内にあるデイサービスへ配属に。こちらでは認知症の方のお世話がメイン。お部屋に閉じこもりがちにならないよう、積極的にお誘いし、お連れするよう配慮しました。さまざまな方とかかわっていると、入居者の方が日常生活の中で「これまではできていたのに、今はできなくなってしまって情けない」と不安を口にされることが気になり、何か対策ができないかと考えるようになりました。それで、「ワーキングメモリー」という脳トレーニングを提案。みんなで集まる機会を作ることで、入居者の方の社会性も保てるのではと思ったんです。
 脳トレーニングといっても、専門知識があるわけではありません。当時話題になったこともあってのことでした。ですから、スタッフと話し合ったり、書籍を読んだりと、ゼロからはじめました。どうすれば効果的なのか。計算は難しいものより簡単なものを解くほうがよい。音読は読むだけでなく、声を出すことでより脳が動く。そんなことを学びながら、その都度よいと思ったことを取り入れていきました。現在は週1回行っていますが、毎回30名ほどの方が参加し、毎週楽しみにしてくださっている方もたくさんいらっしゃいます。ですから、内容も毎回変えるなど、工夫することが欠かせませんね。とにかく、情報を発信し続けること。それを常に意識しています。
 現在は、一時介護室と呼ばれるお部屋で介護を担当しています。たとえば、一般入居者の方が怪我などで入院された場合、退院してお部屋に戻る前に、経過観察の場が必要とされる場合があります。具合がよくないからと、介護居室へ住み替えていただくのではなく、自分のお部屋に戻れるよう支援する。入居者の方にとって一番落ち着くのはやはり自分の部屋ですから。介護居室へ住み替えていただく場合も、スムーズに移れるよう他部署と連携することも重要です。一般居室と介護居室の間に立ち、クッションの役目を果たしているというと分かりやすいかもしれません。
 一時利用室、静養室での介護は24時間体制になります。24時間対応の仕事は未経験でしたので、こちらに異動してからは介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格も取得しました。それでケアプランの立案にかかわるようになり、入居者の方の身体介護も担当するようになって。さらに、係長という役職をいただき、リーダー的な役割も求められるようになったんです。初めてづくしで、係長1年目はとにかく必死でしたね。1年経ってだんだんと余裕が生まれてから、全体的な調整、入居者の方への細かな気配り、他部署との連携をより意識することができるようになりました。とはいえ、難しいことはたくさんありますし、日々勉強、一生勉強ですね。

お年寄りに励まされればやる気スイッチもオン

 この仕事は、毎日色々なことがあります。入居者の方の容体が急変し、駆けつけると倒れて意識がない状態に出くわすこともあります。また、密にかかわった方が亡くなって泣くこともある。私が新人のころ、いつも厳しいことをおっしゃる方がいらっしゃって、「洗礼」を受けたことは今でも印象的です。以前は教師をされていて、いつも着物をしゃんと着こなされていた方。新人だから何を言っても分らないわね、と言われていたのですが、その都度自分の態度を見直し、一つずつクリアしていくことでだんだんと信頼関係を築いていきました。「この子はこれはできるようになったから、今度はこれをお願いしてみよう」ということの積み重ねです。車椅子の押し方、掃除の仕方など、細かなことでも必ず相手の立場になって考えることで、最後は「ありがとう」と言っていただけるようになりました。亡くなるまで5年ほどお世話をさせていただきましたが、毎日自分を試されるような緊張感の中で自らが成長できたこと、厳しい言葉も私たちのためのものだったことを今では実感でき、本当に感謝しています。入居者の方には、励ましのお言葉を頂いたり、「あなたがいてくれてよかった」「もっと長くいて」と声を掛けていただき、本当にありがたい。その一言で救われますし、やる気のスイッチが入るんです。
 今私にできること。それは現場の雰囲気づくりだと思っています。そのためには笑顔と挨拶が大事。初対面の人でも打ち解けやすいことが強みかな、と思っているので、入居者の方と職員との橋渡しをするのには役立っていると思いますね。私たちはチームで仕事をするので、何でも話し合う。会議や勉強会などさまざまな場を活用し、お互いの長所を伸ばし短所は補い合う。そうすることでよりよい介護ができればと考えています。体を動かすことが好き、現場が好きなので、正直に言うとこれ以上役職が上がりたくない気持ちもあります(笑)。とはいえ、自分のカラーを出しながらマイペースでやっていければと思っています。みんなで協力しながらやっていこうよ、と常に声を掛けて進んでいきたいですね。

取材日:2011.1



静岡県浜松市生まれ 浜松市在住


【 略 歴 】

     
2003 社会福祉法人 聖隷福祉事業団 入職
「浜名湖エデンの園」居室サービス課 居室係配属
2006 園内デイサービス「ドルチェ」担当
2009 居室サービス課 介護係異動、係長に

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