さくや姫プロジェクト|トップページ

本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

ジャボチカバで広がる交流の輪。
農園カフェという空間で、 癒やしの時間を提供。

西川文(にしかわ・あや)

西川文(にしかわ・あや)



西川農園


- WEBサイト -

農園カフェ Cafe Jaboticaba

最初の出会いは「何だ、この木は?!」


 ほら、見てください、面白い木でしょう。ジャボチカバといってブラジル原産の果樹です。原住民の言葉で「亀のいる地」という意味です。幹にポコポコと実がつくさまが亀の甲羅に似ているからかな、と思いますけど。白いのが花です。

 ジャボチカバとの出合いは、浜松フルーツパークに勤めている夫の先輩に会いに行ったときのこと。ちょうどジャボチカバが展示されていました。熱帯果樹大好きの夫は、「なんと面白い木だろう」って。1年中実が取れるし、子どもや車いすに乗っていても実にすぐ手が届く。温室を建ててジャボチカバの観光農園を作ってみよう!と思いました。お茶とミカンをやっていましたが、価格が低迷していて起爆剤がほしかったところでした。さっそくジャボチカバを植えました。今年で7年目になります。

 実が取れ始めたので、去年10月に観光農園をオープンしました。ジャボチカバは健康にいいですよ。全ポリフェノールが100g中に410mgもあります。糖度も20度と甘くて色もきれいです。このジャボチカバを、西川農園にやってくる人に味わってもらいたくて、「カフェ ジャボチカバ」もオープンしました。菓子はすべて私の手づくりです。プロの味とは違うでしょうが、全商品にジャボチカバが入っています。ジャボチカバは酸化が早く、1日おくと新鮮味が落ちるので、ジャムやコンポートなどに加工して食べてもらっています。いまも試行錯誤で作っていますよ。

障害者のケアの場になってほしい

 観光農園は日曜日しかやっていませんが、なつかしい故国の味を求めて在日ブラジル人のかたがたくさん来てくれます。日本人のかたには、何をやっているのだろうと思われていて、認知度が低いのがさびしいです。

 私は、障害のあるかたにぜひ来てもらいたいと思っています。父は、千葉で福祉関係の仕事をしていて、私もそこで育ったので障害のある人がとても身近でした。父の仕事に対する思いがわかるので、父と同じことはできないけど、何か人のために役に立ちたいとずっと思っていました。そこで、看護師の仕事を選びました。病院に入院している患者さんは、コンクリートの中で生活をしている人が多いですね。福祉施設で過ごす人も同じです。ずっとコンクリートの中にいると精神的によくありません。だから、園芸療法的なことを試みているかたたちがここへ来て、緑いっぱいの自然やジャボチカバを見てくれればいいなと思っています。

 この西川農園は、個性ある独特の場所だと思っています。だって、ジャボチカバって面白いでしょう。木を見ていると普段感じないことが感じられたり、触って「わっ」と思ったり。障がいのある人はつい引きこもりになりがちだし、自分は他人より劣っていると思いがちです。そうじゃない、ほら、こんな面白い植物もあるのだと、この植物と出合って違う自分を見いだしてほしいのです。父は退職後、自宅を開放して知的障害者のホームを営んでいます。この春、そのホームから3人やってきました。見て触って感じてくれたと思っています。受け入れはまだ1組ですが、西川農園でしかできない体験です。

自然が相手の暮らしから見えてきたもの

 農業は初めてだったので、最初は失敗ばかりでした。ミカンの収穫のとき、「小さい木だけ切ってくれ」って義父にいわれて、よくわからずに、まだ青いミカンも全部切ってしまったことも。でも、夫はもちろんですが、夫の両親もほんとうにいい人です。おだやかで勤勉。特にお義母さんには、種まきや草とりなど農作業のあらゆることを教わりました。コンニャクを作ったり、セイロでもち米を炊いたり、小豆を煮たりといった昔からの農家の暮らしが、西川家にはあります。70代の両親がすごく健康なのは、そういった暮らしや自然相手の仕事をしているからでしょうね。

 東京にいたころは、休みに出歩くのが大好きでした。ここには、休みの日も植物の管理があります。きちんとした休みのないサイクルに、最初慣れることができませんでした。でも、いまは農家の生活にも慣れて、自分の中に幸せをみつけることができます。身近なものが大切なのではないかということに、気がつきました。外から中へと目線が変わって、それが積み重なってきて、子どもたちにいい影響を与えているように思いますね。身近なものを大切にしないと、大きくなって自分自身が壊れてしまいます。自分を大切にすると人にもやさしくできるようになります。それを、義母から教わったような気がします。義母は私の手本です。義母のようになりたいですね。田舎にきて正解でした。

 これから、ハウスのジャボチカバを大きくして、ジャボチカバの森を作っていきたいです。その森で、障害のある人を受け入れていきたいし、異国の果物を通して日本人と外国人が同じ空間を共有できる場所になればいいな、と思っています。ちょうど、開園1年目が終わりました。

取材日:2010.10



東京都生まれ 静岡県静岡市在住


【 略 歴 】

1986 東京で看護師として勤務
2003 ジャボチカバ農園を開始
2009 観光農園を開始

一覧に戻る(TOPへ)