すべての動機は、子育ての「どうして?」
人として必要なすべてが子供の遊びの中にあると言われています。子供達の大切な学びとしての遊びを支えるおもちゃと人をつなげるのが「おもちゃコーディネーター」という仕事です。
優しい気持ちになるもの、子供とのかかわりが楽しくなるもの、心と体の成長を助けるもの、想像力・思考力を育てるもの、そして癒しの効果を持つもの・・・そんな選び方で、その子に必要なおもちゃを提案しています。
この仕事だけでなく、私が関わっていることは、私自身が子育て中に感じた疑問や戸惑いからスタートしたものばかりです。
娘の夜泣きがひどくて眠れない。積木がいいといわれて質のいいものを買っても、それで全く遊ばない。なぜ? どうして? 子育ては、私が持っていた知識や思いをことごとく覆されることの連続でした。頭で知っていることと、自分ができることがまったく違ったり、いいと聞いたものも目の前の状況には役に立たなかったり…。
娘が幼稚園に上り、初めて見た娘の絵は衝撃でした。真っ青に塗りこめた絵には、当時はやっていたキャラクターの名前がついていました。その頃は、キャラクターものに対しての私の考えがあり、子供に対して規制していたんです。
でもその絵を見たとき「子供の気持ちをキャッチできていない!」と気づきました。
それがきっかけで児童画診断や心理学の勉強をし、スクールカウンセラーや絵画療法の講師を勤めることになりますが、これらはすべて、自分自身が子育てで知りたかったことを追求してつながった結果だと思っています。
0~2歳の育ちを支える広場を全国に発信
カウンセラーとして約10年間、子供達と関わっていましたが、小・中学生、大人になっても抱える問題が、0~2歳ごろの育ちに関係があることが多くて、もっと深く知りたい、そう思っていたとき、転機となったのが、高山静子先生との出会いです。
当時、福岡から子育ての情報発信をなさっていた高山先生とは、長らくメールでのやりとりだけでしたが、2008年、浜松学院大学に講師として赴任され、お付き合いが始まりました。
高山先生の講義を聞きたくて、同じように話を聞きたいという人たちと一緒に、先生の講義を聞くために立ち上げたのが「浜松の未来を育てる会」です。翌年、高山先生が提唱する「広場」を始めることになり、浜松学院大学のご理解と協力のもと、月1回で「ここみ広場」がスタート。そして「広場」の運営方法や環境の設定の仕方、動線を考えた配置、おもちゃの選び方といったノウハウをブログで公開し、高山先生からいただいた情報を全国に発信し始めました。各地で同じように親子を支援している方や、子育て中のママたちに知ってほしい、そして活かしてほしいと考えたからです。
「受身でない」広場で、人はつながっていく
「ここみ広場」は0~2歳の子供を連れたママたちが、開催日にいつでも足を運べる広場です。基本的にノンプログラムで、決まったことはしません。スタッフもいますが、何かを教えるための働きかけはせず、遊びを引き出したり、話を聞く必要があれば聞いたり、ママたちをつなげたり、同じ年ごろの子供を引き合わせたりする手伝いをします。「支援してあげる」「してもらう」という形だと、お母さんたちはどうしても「受け手」。「やってもらう」のではなく、一緒にやらない?と声をかけて、同じ目線で巻き込んでいく、それがママたちの力を引き出すきっかけになるんです。今、スタッフは10人ぐらいいます。みんなそうやって仲間になっていった人ばかりです。最近はママ向けの講座も手がけますが、今も基本は「食育の話を聞きたい!」「遊びについて知りたい!」というような、ママ達の興味や要望から始まります。
興味のあるところから主体的に活動に携わった人は、自分が子育てを終えてからも地域に積極的にかかわり、行動できる人になると思うんです。子供を見かければ「いくつ?」と声をかける、それだけでも、孤立しがちな親子と社会とをつなぐきっかけになります。
浜松も町が大きくなり、昔ながらの地域性やつながりが希薄になってきているといわれています。そんな世の中で、積極的に子育てにかかわる親と子は、人と地域をつなげていける、「未来を育てる」力になれるはずです。
取材日:2010.10