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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

地球環境を守るには、地域単位での活動から。
資源循環型社会を目指したリサイクルに取り組む。

勝又さつき(かつまた・さつき)

勝又さつき(かつまた・さつき)



特定非営利活動法人エコハウス御殿場 理事長


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エコハウス御殿場

ごみ問題に関心を持ち、衣類の回収を始める

「まちづくりの基本は、お金のある人はお金を出し、知恵のある人は知恵を出し、何もない人は力を出す」。大学時代に所属していた都市計画ゼミの先生の言葉です。これは、何か物事を進めようと思ったとき、皆が支え合い、協力し合わないとできないということ。私は、自分や子供たちが暮らす街をよくしたい、市民として協力できることは協力したいと、ごみ減量やリサイクル、環境保全に取り組んでいますが、この言葉が活動の基本となっています。

 私は以前は専業主婦をしており、家事をする傍ら生活クラブ生協御殿場の活動などをしていました。その一環として、子供を連れ歩きながら、御殿場市の最終処分場や清掃センターを見学する機会があったんです。そのときに見せられたのが、可燃ごみの中にストーブが混じっているところ。極端な話ではありますが、事実なんです。市民一人ひとりが意識し、きちんとごみを出さないといけないなという気持ちが生まれ、その後、市のごみ処理基本計画策定委員会の委員なども務めるようになりました。

 あるとき、ごみ減量協議会メンバーの女性から「衣類って結構押入れにしまわれているんだけど、思い入れがあってごみとして出せないのよね」という意見がありました。私はそれを聞いたとき、生活クラブの冊子で見たことがある「ファイバーリサイクルネットワーク神奈川」のことを思い出しました。神奈川県で古着、古布、古繊維の回収・再利用の促進活動を行っているボランティア団体なのですが、「こういう組織が御殿場にもあるといいな」と思っていたんです。そこで事務局に問い合わせたところ、秦野市にある繊維リサイクル製品メーカーのナカノ株式会社さんを紹介していただきました。早速電話をしてみると、工場長さんが「御殿場なら近いから年に1回ぐらいだったら引き取りに行ってもいいよ」と言ってくださって。生活クラブの方たちや消費者グループの方たちなどに声をかけ「1回集めてみましょう」ということになったんです。

 回収場所として市民会館の広場を借り、5月30日の環境衛生大会の日に第1回の回収を行いました。その日に集まったのは約2トン。そのときはお金をいただくことはまったく考えていなかったのですが、ナカノさんから「お金はどちらに振り込みましょうか」と言われたんです。それで口座を作ることにしたのですが名称が必要だということで、「ファイバーリサイクルネットワーク御殿場」を設立することになりました。

市内95の資源回収団体が参加する新たな団体を設立

 このファイバーリサイクルはとても好評で、その年の秋にも回収を行いました。すると婦人会の方々が、これはすごくいいからもっと広めましょう、と言ってくださったんです。そうしたら、翌年5月の環境衛生大会にはなんと20トンも集まってしまいました。ナカノさんのトラックには3往復していただき、市の環境衛生課にもお願いをしてごみ収集トラックを出していただいて何とか運び出したんですが、結局1日がかりでしたね。地域の方々は「ごみとして燃やしてしまうのはもったいないけれど、使い道があるのなら」ということで出してくださったようです。

 当時は、衣類としてそのまま再利用できるものが全体の3分の1ありました。これは、東南アジアなどの海外に出されることが多いです。「ウエス」という機械類の油を拭き取ったりするための工業用の雑巾が3分の1。これには洗いざらしのTシャツや下着類がベストなんです。そして、衣類を毛羽立て直してフエルトなどに使用できるようにした「反毛材」が3分の1。現在は状況が変わり、半分が輸出用の衣類として活用されており、そのうちの一部が国内の中古衣料市場でリユースされます。残りがウエスと反毛材という形になってリサイクルされています。

 御殿場市内には、資源回収に関わる団体が95くらいあったのですが、それらの団体が連携し、様々な分野でリサイクルを進めていければいいねということで、その翌年には「リサイクルネット御殿場」として活動していくことになりました。当時、学校をはじめ色々な団体がプルタブ回収を行っていたのですが、市内でそれぞれが集めたものを全部合わせたら、ちょうど車椅子を1台提供できる量になることが分かり、「プルタブ回収を進める会」も一緒に作りました。一校だけでは何年もかかるけれど、市内全ての回収量を合計すれば、毎年社会福祉協議会に車椅子を贈呈できることになったんです。

 リサイクルネット御殿場に参加していたのは28団体です。しかし、市内には全部で95団体あるのだから、どうせなら全体を一つにまとめて情報交換をしたいという意見がありました。そこで市の環境衛生課に相談をしてみたんです。すると、それはいいねと賛同していただき、ファイバーリサイクルに関しても、回収日を決めるよりいつでも誰でも持っていける場所があったほうが、皆が参加しやすいのではないかという話になりました。そして、沼津土木事務所の出張所が空き家になることを教えていただき、そこを事務所兼収集の拠点として借りることができたんです。それで現在の活動のベースとなる「ごてんばリサイクル市民の会」が誕生しました。

 ごてんばリサイクル市民の会を立ち上げるまでには、多くの方々のお世話になりました。中でも、生活クラブで活動していたときの仲間が6人集まってくれて事務局を始めることができたのはすごくありがたかったですね。それぞれ小学生や幼稚園の子供を育てながら活動していたのですが、5年ほどたつと子供たちも高校生くらいになってきて。それまでのようなボランティアの形態では、人材の確保が難しいと感じるようになったんです。そこで、事業を継続していくためにNPO法人「エコハウス御殿場」設立に至りました。

市を巻き込み、生ごみ堆肥化のシステム作りを推進

 エコハウス御殿場では、NPO法人になる以前の1997年頃から、生ごみの堆肥化を推進してきました。2年前からは一般廃棄物処理事業協同組合と連携し、生ごみ堆肥化のシステム作りに取り組んでいます。今は市街地で区域を限定し、900世帯が参加していますが、4月には新たに生ごみ処理施設が完成し、処理能力が現在の10倍ほどになるんです。生ごみ回収堆肥化事業を今後も続け、最終的には市内全域にまで広げたいと考えています。

 御殿場市では、お隣の小山町にあるごみ固形燃料化施設「RDFセンター」で可燃ごみを固形燃料化しているのですが、現在はそこに生ごみも混ざっている状態です。生ごみの90%は水分なのに、それを固形燃料にするというのはおかしいですよね。しかも、膨大な処理経費がかかっているんです。ですから、経費削減のためにも可燃ごみから生ごみを分けることが必要だと考えています。

 生ごみの地域内循環を進めるために、生ごみ回収の参加者や堆肥を利用する農家の方を含めた協議会を作りました。参加者は「生ごみは燃えるごみとして出しているから私はごみだと思っていました」とおっしゃったんです。でも農家の方は「とんでもない。生ごみは畑に還せば全部土に還る。土を肥やす、すごい宝なんだよ」と説明してくださいました。堆肥化は微生物などによる自然発酵法で行っていますが、良質で悪臭もなく好評をいただいています。これらの堆肥は野菜や米作りに活かしているほか、販売したり、市内で花を育てているグループに提供したりしています。

 モデル地区では、集積場に専用の容器を置き、生ゴミを出していただいているのですが、ゴミ袋の中に生ごみがないとカラスやイヌやネコも来ないんです。だから集積場をきれいに保つこともできるわけです。現在は各戸の自由参加なのですが、分別すれば資源として循環させることができますし、近隣の方々にも「これはいい」と思っていただけるようになって、口コミで少しずつ広がっています。

「生ごみの分別」とお願いすると、初めは大変だと感じる方が多いようです。でも、始めてみると意外と簡単だったとおっしゃる方も多いんですよ。まずは一人ひとりの意識を変えていただくことから始まると思いますが、少しずつ皆さんが考えてくださるようになってきているのはうれしいことですね。県の「ふじのくに廃棄物減量化計画」の中にも地域循環圏の先進的な取り組みとして紹介されています。

環境に配慮した資源循環型のライフスタイルを提案

 資源は、最も小さい単位で循環させるのがいちばんエネルギーコストがかからないんです。だから、できれば地域の中で循環させる。それが難しいものはもっと大きいところへ持っていって循環させる、というやり方がいいんです。生ごみも運ぶにはかなりのコストがかかりますから、地域の中で循環させるのがベストだと思っています。衣類に関しては、地元に再生業者さんはいませんが、ウエスなど自分たちで作れるものは作るようにしています。

 エコハウスでは、他にも様々なものを回収して再利用したり、回収したものから新たな製品を作って地域の方々にお譲りしています。その一つがリサイクル手芸のキット。回収した古布や着物地を使って、つるし雛のキットを手作りしたらとても好評でした。現在は手芸教室やリサイクル手芸展も定期的に行っています。また、廃食油を使用し、施設内で作った石鹸も販売しているんです。回収し余った廃食油は、静岡油化工業株式会社に引き取りに来ていただき、バイオディーゼルとして再利用してもらっています。他にも、牛乳パックから作られたトイレットペーパーや紙ひもなども扱っています。

 回収した衣類で状態のよいものやおもちゃ、ぬいぐるみ、家庭用品などはエコハウスで販売します。ほとんどが105円で購入できることもあり、多くの方に利用していただいていますね。その他にも、重曹や生ごみを堆肥にする際に使う「ボカシ」なども置いていて、とうとう環境課の会議室だった所まで使っています(笑)。

 毎年、6月の環境月間には、エコハウスの敷地内で「リサイクルまつり」も開催しているんです。誰でも気軽に参加できるイベントなのですが、一つお願いしているのは、ごみを出さないお祭りだということをご理解いただき、「マイバッグ、マイ食器、マイ箸」を持参していただくこと。おかげさまで毎年1300名ほどの人に来場していただいています。この機会に、楽しみながらリサイクルや環境問題に関心を持っていただければと思って続けています。

 エコハウスでは様々なものを取り扱っていて、利用者は毎年1万5000人に上ります。ですが、これで十分だとは思っていません。私は、手本はすべて自然の中にあると考えているんです。自然環境の中にはごみになるものがない。その無駄のないやり方を学び、実現できるシステムを作ることができればといつも考えていますね。

次世代を担う子供たちへの環境教育を重視

 私たちは、エコハウスでの活動を通じ、先ほど挙げたような資源循環型社会の実現を目指しています。そして、そのためには次世代を担う子供たちをはじめ、各世代への環境教育が重要だと考えています。日常生活の中で「そうだよね」「なるほど」と思ってもらえるような環境教育ができればと思っているんです。知らなかったことを知ると人に伝えたくなりますよね。そして人から人へ伝わっていきます。そういう雰囲気が町に出てくることが大事だと思うんです。私は、自分が「ズキン」としたことを伝え、聞いた方が「ズキン」と感じて下さったら行動に繋がると思うからです。

 具体的な活動としては、毎年夏休みに小中高生を対象に「エコアクション」というイベントを開催しています。水素で走る燃料電池バスの試乗ができるほか、リサイクル手芸や石鹸作り、蜜ろうを使ったキャンドル作りの体験コーナーなど、様々なブースを設け環境について考えてもらえるようにしています。カブトエビを使ったエコロジー農業の紹介や、食物の輸送距離を「フードマイレージ」として示し、輸送に伴い発生する二酸化炭素が地球温暖化に与える影響に着目した講座なども行いました。

 そして毎年、閉会行事の中で子供たちによる提言を採択します。提言は、「御殿場の環境への提案」として参加中学校6校の代表生徒により市長や議長に提出され、そこで行事が完結するようになっているんです。子供たちからは、ゴミ拾いをしたらタバコの吸殻が一番多かった、なんていう鋭い指摘もありましたね。提言したことに対して市がどう対応したかについては、翌年の開会行事で発表されます。「エコアクション」は、その形でもう15年ほど続いています。このイベントは、出展団体の方やその他大勢の方々に支えられて成り立っていて、皆さんには本当に感謝しています。

 私たちの活動について、皆さんが共感を持って関わってくださると本当にうれしいですし、ありがたいことだなと思います。ゴミ減量もリサイクルも環境保全も、市民一人ひとりの主体的な行動や意識が生まれなければ実現できないことですから。私は、楽しみながらそれらに取り組める仕組みを、皆さんの身近に作りだせればいいなと思っているんです。

地域活動が美しい地球を守ることに繋がる


 私が生活クラブ生協の一組合員だった頃に、当時理事長だった井出敏彦さんから「ごみの分別と分別ある暮らし」についてのお話を伺ったことがあります。井出さんは元沼津市長で、1975年に「沼津方式」と呼ばれるごみの分別収集を全国で初めて実現した方です。エコハウスで行っているのは、誰にでもできることですし、必要なことだったのですが、これまで誰もやろうとしなかったことです。一市民として暮らし方に責任を持つということも、本当は誰にでもできることなんですが、なかなか実現しません。その中で私にできることは、御殿場市の環境は私たち御殿場市民の暮らし方で変わるということを伝え、自ら行動することだと思っています。井出さんのおっしゃる「分別ある暮らし」を、私自身が心がけることだと思っているんです。

 ただ、私たちの活動はまだまだ途上であって、市民にもっと浸透させていくためには、これを継続していけるシステムをどんどん作っていかなければならないと思っています。そして、継続していくためには、若い人たちにももっと参加してもらえる努力を地道に積み上げていかなければなりません。世の中に必要でないことであれば淘汰されるでしょうが、必要とされているからここまできたのであり、また必要とされることを見つけていくことも重要だと考えています。「エコハウス御殿場」という形でなくてもいいんです。何らかの形で、こういったことがシステムとして継続されていくこと、暮らしの中で当たり前に存在する社会を作っていかなければならないと思っています。

 そのために私たちにできることは、自分たちの地域は自分たちでカバーしていくということです。全国的、世界的に活動している人たちもいるけれど、その人たちと常に触れ合うことはできませんよね。それならば、ここに住んでいる私たちがアンテナを高くして、この町の市民の人たちにきちんと伝えていくことが大事だと思います。そうして私たちが暮らす御殿場市の環境がよくなって、そういう町がいくつもできていけば、地球環境がよくなることにも繋がりますよね。そのために地域の中にシステムを作って、「あそこへ持って行けば何かしてくれる」と思ってもらえる場所を作りたいと思っているんです。

 御殿場市は、静岡県という生命体をつくる細胞の一つです。細胞である市町村が輝けば、静岡県も輝く生命体になります。その生命体を輝かせるために、そこに住む人は美しい環境を次世代に繋ぐ責任があります。私は、一人ひとりの行動が美しい静岡県、美しい日本、ひいては美しい地球を作るのだと信じていて、私たちの活動もそこに繋がっていると思っています。

取材日:2011.2



静岡県御殿場市生まれ 御殿場市在住


【 略 歴 】

     
1978 日本女子大学家政学部卒業後工務店勤務
1981 出産のため退職、専業主婦に
1991 生活クラブ生協御殿場支部長
御殿場市ごみ処理基本計画策定委員会委員、以後協議会委員、審議会委員を歴任
1994 ファイバーリサイクルネットワーク御殿場 設立
1995 リサイクルネット御殿場 設立
1996 ごてんばリサイクル市民の会 設立
ストップ ザ 地球温暖化県民ネットワーク団体会員(現アースライフネットワーク)
2001 NPO法人エコハウス御殿場設立 理事長就任

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