さくや姫プロジェクト|トップページ

本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

自然体験を通した地域交流や学童保育、
病児病後児の預かり事業などを展開。

倉田たえ子(くらた・たえこ)

倉田たえ子(くらた・たえこ)



特定非営利活動法人 湖西なろっぷスクール 理事長



親子で楽しむ野外体験活動、地域交流の場を提供

 うちは、娘が一人っ子だったんです。一人っ子のなかには人見知りする子も多いでしょう。娘もそうだったんです。私の妹の子どもが二人いて、その子たちが家に遊びにきて兄弟喧嘩を始めると、隅の方で小さくなっているような子でした。周りには大人しかいないから、子ども同士の喧嘩を知らないんですね。そういう状況を見て私は、娘がかわいそうだなと思ったんです。
 それで、なるべくたくさんの子どもたちと触れ合ってもらいたいと思い、娘が小さなうちから、子どもが集まる野外活動など様々な場に連れ出すようになりました。すると、あるとき私と同じように一人っ子を持つお母さんたちから「うちの子も連れて行ってほしい」という話があり、その子たちを連れて、三ヶ日にある青年の家での合宿に参加したんです。帰ってくると、子どもたちが変わったとお母さんたちが言ってくれて。それじゃあ湖西でも開こうかということになり、4世帯が参加して「湖西なろっぷスクール」を立ち上げることになりました。
なろっぷ(NALOP)とは、ネイチャー(NATURE)、ラブ(LOVE)、ピース(PEACE)の頭文字からなる造語。青少年の健全な育成を目指して、親子が地域交流イベントや野外体験、宿泊体験を通じて触れ合える場を提供することを目的としています。といっても、当初は事務所も何もない状態でしたので、話し合いには私の家の一部屋を使い、活動も神社の境内やお寺など無料で借りられる場所を探して行っていました。
 第一回の参加者は、20名くらいだったと思います。神社の境内にビニールシートを敷いて、みんなで竹鉄砲を作ったり缶ぽっくりで遊んだりしたんです。それが、翌年には参加者が100名ほどになっていましたね。当時は、そういう活動があまりなかったので物珍しさもあったのでしょうが、地域の子どもたちや親同士がみんなで交流できる場が求められているのも感じました。
 現在、なろっぷスクールでは毎月様々な行事を行っています。スキー教室や登山スクール、遊園地へ遠足にいったりする他、川遊びや動物の世話を体験したり、料理教室を開いたりと色々ありますね。昨年は、湖西市全域に呼びかけて“スペシャルクリスマスパーティ”を開催し、ピアノコンサートやゲーム大会などを行いました。
 企画や運営は、中学生や高校生、大学生のボランティアリーダーを中心として行っています。私の娘も学生時代はずっと手伝ってくれていたんですよ。夏休みの間も、イベントの準備にかかりきりで頑張ってくれていましたね。

自身の病気の経験からボランティア活動を続ける

 青少年健全育成にかかわるボランティアは、私自身が学生の頃から行っていたことなんです。元々は生徒として参加していたのが、そのままボランティア指導者になったという流れですね。夏休みにみんなで集まって草刈りや山焼きをして、そこへテントを張って寝泊りして。そんな野外活動をしながら子どもたちを預って過ごす時間は楽しくて、終わった後には何とも言えない満足感がありました。
 ボランティアを続けてきたのは、私が小学生のときに父と妹を亡くしたことと、私自身も病気になったことがあると思います。妹は私が小学4年生のときに心臓病で亡くなったのですが、小学5年生になって私も心臓に持病があることが分かったんです。父と妹のことがあったので、それからは、私は自分も死ぬのではないかと常に考えるようになりました。それが自分の生活のベースになっていたんです。眠ったらそのまま死んでしまうのではないかと思い、夜は怖くて寝られない。夏に雨戸を開けると、窓のところで小さな虫がたくさん死んでいて、それを見ても自分の死のことを考えてしまうんです。
 そういう日々の中で、ある日思ったんです。私がこの世に必要な人間ならば、命が与えられるだろうと。必要でないなら命がなくなっても仕方がない。もし生きられるなら幸運なことだから、そうなったら精一杯生きてみようと、その時決心したんです。小学5年生でまだ子どもでしたが、それからは自分がどんどん変わるのを感じました。誰かのために、少しでも何かしたいという強い思いを持つようになりました。
 中学生の頃は具合が悪くて学校に行けないことが多かったのですが、高校に入ってからは、ほとんど休まずに通学することができるようになりました。マラソン大会では、なんとか完走することもできて。おかげで、ボランティア活動も続けることができたんです。就職してからも、夏休みなどを利用してお手伝いに行ったりしていましたね。結婚した頃は遠ざかっていましたが、子どもが生まれてからはその子を連れて一緒に参加するようになり、それがなろっぷスクールの設立にも繋がっています。

子どもたちと常に触れ合う学童保育を開始

 なろっぷスクール設立から7年ほど経ったとき、新たに学童保育施設を立ち上げることになりました。湖西市には工場が多く、そこで働くために県外から転入してくる家族がたくさんいたのですが、当時はそういう家庭の子どもたちを預けられる施設があまりなくて。でも工場はどんどん増えていって、どうすることもできないわけです。それで地域の方々は非常に困ってしまって、それで私たちにどうにかしてほしいと要望がきたんです。それまでは月に1、2度の活動だったのですが、そのときに内部から、できれば常に子どもたちと交わっていられる事業がしたいねという話が出ました。さらに、ある会員さんが場所を提供してくださるというお話もあって、なろっぷ児童クラブ「あせかくこ」を開設することになりました。
「あせかくこ」は民間の学童保育施設ですから、親の帰りが遅い子どもたちも預かっていますし、土日や祝日なども必要に応じて活動しています。長期休暇中も基本的には開けていますね。夜の21時過ぎまで預かることもあれば、子どもを学校まで迎えにいくこともあります。今は家庭の事情も以前とは変化してきていますから、現状に応じたきめ細かなサービスを提供できればと考えています。
 大変なことは色々あります。参加費から職員の給与や経費を捻出するのは難しいので、市に補助金の相談に行ったり。始めて1年経った頃には20人ほどの子どもたちを預かるようになっていたのですが、お借りしていた事務所も傷だらけになってしまって。子どもたちは遊び盛りですからね。それで専用の建物が必要だと思い建てる決心をしたのですが、難しいのはやはり資金のこと。自己資金だけでは足りず、寄付金を募ろうと思ったのですが税制上の問題などがあってうまくいかず、困っていたんです。ところがそんなときに知人が協力を申し出てくれて。建物ができた後も、作業小屋や印刷機など様々な備品を色んな方々から寄贈していただきました。余るほどたくさんいただいたんですよ。多くの方に助けていただいたことは、今でも本当に感謝しています。
 1999年にNPO法人となってからは、社会的な信用を得やすくなったことや自治体の補助金などの情報を集めやすくなったことで、活動がしやすくなった面もあります。現在は、湖西市からの委託で鷲津小学校の学童保育施設「放課後元気クラブ」の運営や、湖西市のふれあい交流館の管理なども行っています。なろっぷスクールは、様々な方からの寄付や善意で成り立っている活動ですから、これからも責任を持って活動していきたいと思っています。

ニーズに応えた病児病後児緊急預かり事業も

 近年の取り組みとしては、病児病後児緊急預かり事業があります。2009年に厚労省の委託事業として始めたのですが、現在はなろっぷ独自で行っており、保育士の有資格者などが対応しています。不況の影響もありますが、最近は女性の能力が認められてきて、働きたいというお母さんも多いんです。それと、核家族化が進み、おじいさんやおばあさんに子どもを預けられない人も増えていますよね。あとは、やはり離婚する人も本当に多い。それらの事情から、この事業には今すごくニーズがあるんです。
 子どもが病気のときくらいは親が面倒を見るというのは理想ですが、実際はどうしてもそうできない人もいるんです。例えば、幼稚園や小学校の先生は、子どもが熱を出したからといって休んでしまったら、クラスの子どもたちはどうするのか。看護師さんが夜勤を休んだらどうなるか。私は、実際に働いている方からそういう声を聞いているんです。ご家族の要望も、状況により様々です。例えば、朝病院に行って診察を受けさせてほしいが、もし熱が37度台だったら学校に送ってほしい。38度以上あればそのまま1日見ていてほしい。そういう依頼をされる方もありますね。
 様々な要望に対応できるよう、なろっぷでは3つのコースを用意しています。1つは依頼者の自宅でお子さんを見ること。1つはお子さんを連れてきていただき、なろっぷの事務所で預かること。そしてもう1つは預かる者の家庭で見ること。お母さんやお子さんの不安を取り除けるよう、様々な配慮をするようにしています。
 このサービスを利用するには、事前に登録することが必要です。預かる子どもの普段の状況を把握していなければ、病気になったからといって急に預かることはできませんよね。例えばこんなアレルギーがあるとか、以前どんな病気にかかったのかとか、その子のデータがなければ何かあったときに大変なことになりますから。事前情報があれば、病院で先生にきちんとした説明をすることもできるんです。その情報をもとに、私たちも一人ひとりの子の状態を把握するよう努めています。

活動を通して自らも育てられていると実感

 昨年からは、大学生などを対象としたインターンシップ研修生を受け入れるようにもなりました。子どもたちと野外活動体験や地域交流活動を行うほか、病児病後児を預かるための研修、怪我の対処法、AEDの使用講習などを通じて、子どもに関連する様々なことを体験してもらっています。医師や看護師、保育士の講演もありますし、今後の青少年健全育成事業についての考察を行う研修会では、少子化問題、地域とのかかわり、ボランティアなどについてスタッフとともに考える機会もあります。
 なろっぷスクールでは、人の心を育てる事業に重きを置いているので、様々な体験からものの考え方や見方を養ってもらいたいと思っているんです。子どもたちだけでなく、青少年育成にかかわる人すべてに、活動を通して自分自身を磨いてもらいたい。資質や技術だけではなく、心のあり方やそれぞれの思いをきちんと伸ばしていってもらいたいと思います。そして、これからの日本、そして世界を背負う若者になってほしいんです。
 学生さんたちには、学校を卒業して就職するときなどに必ず言うのですが、人生に失敗なんてことはないんですよね。失敗したと思っても、次へのステップだと考えればいいんです。すべてが勉強だから、あきらめず前向きに頑張ってやるように私はいつも言っています。
 こんなことを言うと私たちが子どもを育てているかのようなのですが、実際は自分たちが育ててもらっているのだと思っているんです。活動をしていると、子どもたちや親たちや色々な人が喜んでくれて、そのことで私自身もすごく満足するんです。誰かが喜んでくれると嬉しいなって思うんですよ。でも、今振り返ってみると、「ああ、こういう経験をして私は育てられたんだな」と実感しますね。
 なろっぷスクールでの活動を通して、私自身のものの見方や考え方もだいぶ変わりました。昔だったら許せないと思うようなことでも、「もうちょっと見ていてあげよう」と思える余裕が生まれたと思います。ここでは一人で何役もこなさなければならないので、色々なことができるようになりましたよ。パソコンを使ったり、会計をやったり、企画を立てたり。本も作りました。ここにいる人はみんなそうなんです。「ここでは色々なことをやっているから、自分が全然できなかったこともできるようになった。それが今すごく活きている」と言ってくれる子もいます。ここで成長した子どもたちが社会で活躍している姿を見ると、この活動をしていてよかったと本当に思いますね。
 私はこれまで、どんなことがあってもへこたれないで、前向きにやってきたと思っているんです。何しろ諦めが悪くて、ギブアップしないんです(笑)。それは、先ほど言ったような子どもの頃からの思いもありますし、私自身が成長できている実感があったこともあると思います。だから、あと30年は生きたいんです。生涯現役でいられればいいなと思いますね。

取材日:2011.1



静岡県湖西市生まれ 湖西市在住


【 略 歴 】

1988湖西なろっぷスクール 4世帯にて開校
1994静岡県青少年指導者養成事業団体として登録
1995湖西なろっぷスクール事務局を開く
静岡県「はつらつ女性地域活動事業」として認定
なろっぷ児童クラブ「あせかくこ」開設
1998(財)静岡県ふれあい基金財団より静岡県ボランティアグループ活動奨励賞受賞
託児ボランティア事業開始
1999特定非営利活動法人 湖西なろっぷスクール 設立
2006湖西市ふれあい交流館指定管理者となる
2008「鷲津小学校放課後元気クラブ」湖西市より委託される
2009厚生労働省委託事業 病児病後児緊急預かり事業開始(現在は独自で行う)
2010内閣府事業である就業サポートのためのインターンシップ研修生の受け入れ開始

一覧に戻る(TOPへ)