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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

専業主婦から老舗の7代目に。
健康志向の製品開発で、新規ビジネスも展開。

馬場昌子(ばば・まさこ)

馬場昌子(ばば・まさこ)



合名会社馬場製菓 代表


- WEBサイト -

馬場製菓

「自分を下げる」ことから始まった

 馬場製菓は江戸時代末期、天保7年の創業でして170年以上の歴史があります。このあたりは昔、「寺町」と呼ばれていまして、その名のとおりたくさんお寺がありました。お供え用のお菓子を販売する店も多く、一時期は27軒もあったという記録もあります。1940年の静岡大火でだいぶ減ったそうですが、私が嫁いできた69年ごろでも10軒くらいは残っていましたね。しかし今では、このあたりで製造卸もしている菓子店はうち1軒になってしまいました。 昔の記録帳をひも解いてみますと、かつてはカステラや干菓子など、いろんなお菓子を製造卸していたことがわかります。お寺では縁日のとき、お参りに来た方々にお供物を差し上げる風習があったのですが、静岡県内のほとんどのお寺さんの菓子型なども残っておりまして、かなり手広く商売していたことがわかります。

 飴は創業当時から製造していたようです。江戸時代の茶飴は、今のように「茶」の文字があるものではなく、「鉄砲玉」と呼ばれ丸い形をしていました。東海道をゆく旅人が懐に入れて持ち歩いたのだそうです。伝統的な組み飴は、昭和の初めからつくっています。いろいろなお菓子の製造を辞めて茶飴一本にしたのは先代のときです。 私が7代目になったのは、主人が急死した95年。それまでは専業主婦でした。 最初は後を継ぐつもりはなかったんです。それが職人たちに「7代目になってくれ」とお願いされて……。なかには「一生涯を飴づくりで終わりたい」というような、生粋の飴職人もいたんですね。しかし当初は、後を継ぐ大変さがあまりよくわかっていませんでした。

 まず何をすればいいのかと聞いたところ、お得意様に挨拶してほしいと。今では何でもないことなのですが、当時の私は、人に頭を下げるということがこんなに大変だとは思わなくて……今でも覚えていますが「これからもよろしくお願いします」と頭を下げたら、涙がポトリポトリ落ちてきました。 そんなとき、娘が通っていた学校でたまたまカトリックの勉強会がありました。そこで当時の校長様が聖書の一節を引き合いに出されながら「夫が亡くなったり、いろいろな生活条件が変わったとき、今までの社会的位置から自分の位置を下げることができる人が賢い人」というお話をされたんです。私は本当にそのとおりだと、目がらうろこが落ちたような気持ちになりまして、純粋にその教えをしっかりと受け止めて自分の位置を下げる努力をしようと心に決めたんです。専業主婦で何の経験もない私がここまでやって来られたのは、その教えのおかげだと思いますね。

不可能を可能にした「緑茶カテキン飴」

 あんなに頑張れたのは、ひとえに「健康は大切」と思うからです。1人でも多くの方が主人のようにならないために――なんです。だって家族も悲しいじゃないですか。私自身、そういう思いをしていますから、一生懸命でしたね。 あとは、主人が生きていた頃、商売に一切携わっていなかったことも良かったのかもしれません。何も知らないだけに「怖いものなし」というか。製造卸に加えてマーケティングや販売を始めたり、手形をやめてすべて現金取引に切り替えたり、台湾などアジアへの飴の輸出を始めたり、結構いろんなことをやってきました。

 新製品の開発にしても、あまり利益を考えなかったんですよ。とにかく健康が大切だという気持ちだけで突き進んできたような感じです。その代わり、東京ギフトショーやFOODEX JAPAN(国際食品飲料展)に出展したり、これまでと違う方法で商品をアピールしました。ちゃんとやっていれば利益はついてくるものです。 緑茶カテキンに続いて、認知症の初期予防に効果があるといわれるテアミンの飴を開発しました。テアミンは一番茶に多く含まれている物質で、ストレス解消にもいい。これも静岡県立大学の先生にご協力いただき、2002年に糖質ゼロの「脳にやすらぎテア二ン飴」を発売しました。他にも「健康づくりオールカテキン飴シュガーレス」「Nアセチルグルコサミンカテキン飴」など、健康志向の飴は現在、当社の主力商品になっています。

 こうした新製品のなかには、他社では開発に失敗したものもあるんです。馬場製菓には「一生飴づくり」という職人がいて、170年の歴史に裏付けられたノウハウがありますから、そこが強みになっています。あと、「こういう商品が欲しい」という依頼に対し、私は絶対に「できない」とは言わないんです。緑茶カテキンもそうですが、試行錯誤の末、不可能を可能にしてきたわけです。そういうスタンスは今後も変えないつもりです。 私には、江戸時代から続く暖簾を守りつつ、後に続く娘のためにも、ビジネスの可能性を広げていく責任があります。娘は自分がやってきたことをちゃんと見てきたと思うんですね。なので娘の代は、娘が自分で考えて進めていけばいいと思うんですよ。押し付けはしないで。それぞれ時代にあったやり方でやればいい。自慢の娘ですから(笑)、きっと私以上にいい仕事をしてくれると思います。

取材日:2010.08



静岡県静岡市生まれ 静岡市在住


【 略 歴 】

1995 馬場製菓 7代目に就任
1997 「緑茶カテキン飴」を自社開発
1998 「緑茶カテキン飴」で第23回全国菓子大博覧会最高名誉総裁賞
2002 「脳にやすらぎテアニン飴」で第24回全国菓子大博覧会最高賞名誉総裁賞
「健康づくりオールカテキン飴シュガーレス」で第24回全国菓子大博覧会金賞
2008 世界緑茶協会O-CHAパイオニア賞受賞
「元祖静岡のお茶飴」で第25回全国菓子大博覧会内閣府特命大臣賞
「元祖茶飴」で第25回全国菓子大博覧会橘花榮光賞を受賞

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