さくや姫プロジェクト|トップページ

本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

身につけた人のものになる瞬間と驚き。
空気ごと映えるジュエリーを「作らずに作る」。

松浦峰里(まつうら・みねり)

松浦峰里(まつうら・みねり)


現代ジュエリー作家
atelier mineri 主宰
(社)日本ジュウリーデザイナー協会 会員
(社)日本クラフトデザイン協会 会員



立体物から金属に魅かれて

 私の母は日本画出身の現代アーティストですが、私自身は絵画より立体物を作るのが好きな子供でした。紙の図面などを見て、パッと頭に立体像が思い浮かぶ感じ。だから大学は立体が作れるところ、そして「役に立つもの」、芸術品よりも工業デザインに興味があったので、工芸工業デザインという科を選びました。
 3年生以降は、そこからさらに細かく分かれますが、陶芸か金属かで迷いました。決め手になったのは、陶芸が「自然にゆだねる部分が多い」ことです。陶器は、窯に入れている間、火の感じで色が変わったりゆがんだりして、それも一つの面白さではあるけれど、自分ではコントロールしにくい。そこが、ちょっと違うな、と感じたんです。「素材との体質的な相性」とでもいうのでしょうか、私は、金属を触っているときにビシッと完成する感じ、金属という素材を扱うプロセス――あらかじめゴールを決めて取りかかる、という方が、しっくりした。完成度が高くできる素材だな、と。
 でも、そこからジュエリーを選んだのはすごく単純な理由で、鉄は重くて大きくて、溶接に特別な機械が必要で、家具などを作っても自分一人で運ぶのは大変そうだったから。小さくて用途があって、アーティスティックな部分もあって…という部分をかなえてくれるのがジュエリーでした。それで大学卒業後、ジュエリーの道に進もうと決め、磐田にお住まいの先生のところに8年ぐらい通いました。

現代ジュエリーと、日本的精神性


 私が作るのは「コンテンポラリー・ジュエリー」「現代ジュエリー」と呼ばれるジュエリーです。これは「ジュエリーの固定観念を取り払おう」というコンセプトから生まれたもので、例えば木や段ボール、プラスチックを使う方もいます。でも私自身はもう少しざっくりした考え方。今は貴金属を使わない方向に流れているけれど、貴金属を使ってもコンテンポラリー=現代的なものは作れるのだから、異素材にこだわる必要はないんじゃないか。そういった意味で、私は貴金属も使って表現しています。
「硬い」イメージの金属ですが、実はとても柔らかいんです。ヨーロッパのジュエリーは銀食器のような「磨ききった」印象があるけれど、日本人は割れた器を金で直して目立たさせたりするんですよね。あるいは和紙といっしょにプレスすると和紙の型がついたり、柔軟に表情を出せる素材なんです。
 ジュエリーはヨーロッパの洋服文化から入った文化なので、日本人はまだジュエリーに慣れていないと感じるときがあります。ただ、日本にも昔から根付やかんざしなどの装飾品があり、大名のために刀などの装飾を手がけていた職人たちが明治の「帯刀禁止令」後、その技術を装身具に集約した、という歴史的な背景があるんです。なので、日本人はジュエリーに対する素養が十分あり、ヨーロッパで育まれたジュエリーとは、精神的に少し違った状態で根付くものだと思っています。私は今、日本に住んで、日本の人が使ってくださるものを作っているので、そういうところを深く考えながら、少しずつ創作にも取り入れて行きたいですね。

使う人の空気とかみ合うジュエリーを

 今はオーダーを受けて作るものと、個展やコンペティションに出品するための創作があり、その中でもアーティスティックなものと実用的なものに分かれます。ジュエリーを作り始めたばかりの頃はコンセプトを考えたり、こういうものを作ろう、と意気込むこともありましたが、今は「作らずに作る」ことを心の中に置いています。
 器は、料理が盛り付けられることで世界が完成しますよね。ジュエリーも同じで、身につける人のものになる瞬間と驚きがあります。ジュエリーをつけていて「素敵だな」と感じる人は、その人らしいおしゃれができている、ということ。そのためには作り手の主張が強すぎず、使う人の空気とかみ合うものでなければなりません。作りこみすぎず、自然であるーーそれが「作らずに作る」ということでしょうか。
 でも、私が作っているようなジュエリーは見たことがないとよく言われます。見たことがないという人に、こういうジュエリーもありますよ、と知っていただくために「コンテンポラリー」という言葉を使っていますが、私にとってやはりジュエリーは「使っていただくもの」。芸術としての難解さより、日常使うものが好きなんです。「あ、これいいな」とパッと感じられるような、五感で理解できるものでありたい、と思います。
 これからはジュエリーに限らず、彫刻なども作って、ジュエリーと一緒に置いてみるなど、私自身のトータルなスタンスを表現していこうと考えています。立体なら、どんなジャンルでも。例えば、オブジェだけど花がいけられるという展開もあってもいいんじゃないかな、と。個展ではそんな空間で、お客様に楽しんでいただきたい。そういう意味では、ジュエリーって総合エンタテインメントなんです。

取材日:2010.12



東京都生まれ 静岡県三島市在住


【 略 歴 】

           
1998 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業
2000 日本ジュエリーアート展入選(東京 上野の森美術館)
atelier mineri(静岡市清水区)開設
2001 ‘01高岡クラフトコンペティション入選
2003 新人作家8人展(東京 恵比寿)
2004 日本クラフトコンペティション入選(東京 丸ビル)
2005 国際クラフト展―伊丹―入選(伊丹市立工芸館)
2006 INTERNATIONAL METALWORK(静岡文化芸術大学)
2007 ビエンナーレ第12回日本ジュエリーデザイナー展(銀座和光)
2008 日本アートジュエリーコンペ入選(東京 上野の森美術館)
2009 松浦峰里ジュエリー展(静岡カントリー浜岡コース&ホテル)
2010 個展(静岡市 メポトリ)

一覧に戻る(TOPへ)