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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

高等小学校のとき全力で走って以来の力走。
95歳、女子3種目で日本記録を樹立。

岩城かつ子(いわき・かつこ)

岩城かつ子(いわき・かつこ)



第26回静岡マスターズ陸上競技選手権大会 日本記録保持者



「スポーツはしたことないけど、とにかく歩きました」


 スポーツはしたことがありません。1~2年前からミニゴルフを始めたくらい。それも、たまに行くだけですけど、動くのは若いときから好きで、嫁いできてからは人形店を手伝いながら畑仕事をしました。山のミカン畑へ行って、背負い篭にいっぱいミカンを入れて降りて、また登って、何回も。お茶の時期になると山の茶畑へ、茶摘みの手伝いに行きました。80代の終わりごろまで頼まれましたね。立っていて摘むから大変ですよ。本当に歩いて、歩いて、足が丈夫になりました。歩くのが主で、走ることはなかったですよ。
 ところが、急ぐときは小走りしていたようで、それを見ていた孫の孝也が「マスターズ大会に出たら走れるかもしれない」と言い出したことから、走ったこともないのに60m・100m・200mの3種目に出てしまいました。第26回静岡マスターズ陸上大会の95~99歳クラスです。
 孫がホームページとかでマスターズの女性記録を見ていたら、90歳までしか記録がないことがわかって。しかも、その90歳の記録は100mが50秒だった。小走りする私を見ている孫は「40秒台で走れるかもしれない」と思ったというから、困ってね。私、95歳ですよ。真っ直ぐ走ればいいのかと思ったら、そうではなくて、コースをはずれて隣のコースに入ると失格になるという。年ですから、ちょっとよろけて隣のコースに入ることもありますよ。孫が、とてもそれを心配したわけです。
 私も自信がないから、本番前に練習をしたら、やっぱり心配事が出てきました。200mコースの線はカーブの実線で、100mコースは直線の点線で描いてあり、間違って隣のコースに入ってしまいました。下を向いて走っていたので、線に惑わされてしまったようです。孫に「下を見るな。遠くを見て走れ」と言われて、本番は前を向いて走りました。

拍手の中ひたすら前を向いてゴールをめざす


会場のエコパは広くてびっくりしました。ぐるりひと回りしてみようくらいの気持ちで走り始めたのですが、なかなか足が進んでいかない。100m・60m・200mの順で走りました。100mのときは、無理なく走ればいいと思っていたのに、緊張していました。周りの人に、「あれ、年取ったおばあさんが走るな」という感じで見られていたそうです。ここで日本記録が出たので、次の60mのときは「100mで日本記録を出した岩城さん」と紹介されたので、注目されてしまって。これも日本記録になったので、200mを走るときは、スタート前から拍手が聞こえます。会場に手拍子が鳴り響く中を走りましたが、もうびっくりして足が進まなかったです。拍手はうれしかったですが、これでコースをはずしたらと思うと、緊張しましたね。
 出てよかったです。走ったことがなかったのに、夢中でゴールをめざしたら日本記録が出たし、孫にいろいろ助けもらって、本当にありがたいことです。
 孫がいたからこその記録です。教えてもらったことが役に立ちました。同じレースでゴール手前にきてころんだ人がいました。練習のとき、体だけ前にいくところぶので、足を前に出すようにして走るといいなど、ころばないコツを孫が教えてくれましたので、教わったように走りました。教わっていなかったら、きっところんでいたと思いますね。

体が元気なら、次回もチャレンジ!


 健康には気を遣っています。かかりつけの病院にはきちんと行っています。力もありますよ。背筋だって曲がっていないでしょう。食べ物はなんでも食べます。自転車には90歳まで乗っていました。91歳のとき、足の指3本骨折しギブスをはめましたが、いまはぴんぴん。歩くのが当たり前だったから、骨が丈夫なのでしょう。だから、走れたのだと思いますよ。
 大会に出てから、人と知り合い話す機会が増えました。近くの人や地域の老人会からお祝いをしてもらいました。こういうことがなければ、1人で部屋にいる時間が長かったでしょうに。「あんた、よく走れたねえ」「私も走れるかねえ」など、みんながいろいろ話しかけてくれます。なんだか、毎日が楽しいです。
 来年の大会はね、体がきかなかったら走れないけど、体がいうことをきけば、出たいです。孫には、またお世話にならないといけないけど。体しだいですね。

取材日:2010・12



静岡県静岡市生まれ 静岡市在住


【 略 歴 】

1942 岩城人形店に嫁ぐ
2010 第26回静岡マスターズ陸上競技選手権大会95~99歳クラスで日本記録

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