小学生の頃から学校教諭になりたくて、ごく普通に「高校から大学に行って…」というレールを思い描いていました。それが中学2年に両親が離婚したのを機に難しくなってしまって。高校に行き、大学にも進学したものの、やっぱり経済的な理由で中退せざるをえなくなりました。それでも子供たちに勉強を教えたい、関わりたいという気持ちは変わらず、何かの形で子供たちに関わる仕事に就きたいと思い続けていました。

　東京で就職した後、熱海に帰ることになり、最初は塾のアルバイトの仕事を探しました。でも大学中退だと雇ってくれるところがなかったんです。そこで、当時中3だった妹と、その友達に勉強を教えるところから塾をスタートしました。

　今は授業料をかなり抑えています。当初は普通ぐらいの料金設定で、自分と同じような一人親家庭だけ低料金で授業をしていましたが、今の世の中、一人親家庭でなくても経済的に厳しい家庭が少なくないんじゃないかと感じ、以来、今まで低料金でやっています。

　両親は離婚する前から仲が悪くて、私は小5ぐらいから家にいるのがいやだと思い始めていました。でも当時、放課後クラブに通っていて、そこで下級生と遊んであげたり、宿題をみてあげたりがすごく楽しかったので、小学校の卒業時には漠然と教師になりたいという気持ちがあったんです。中学時代もずっとそう思っていましたが、夢自体は持っていたけれど、環境が伴わず、やる気も出なかった。「家庭がよければ願いが叶ったはず」と離婚のせいにしていた部分もありました。

　それが変わるきっかけになったのが、高校の先生との出会いです。中2の後半から熱海の中学に転校し、進学した高校で、担任の先生が3年間同じだったんですが、その先生自身も両親が借金を理由に離婚していて、私と同じ境遇だったんです。先生に愚痴を聞いてもらいながら、学校生活やバイト、部活なども両立していましたが、それでも家族のことが許せず、離婚のせいにしていた私に、先生は「親を認められないのは淋しいことだよ」と。親を認められないのは自分自身も否定することだから、それは淋しいことだ、と。それがすごく心に響いたんです。同じ経験をした人に言われたからこそ、心に届くものがあって…そこからですね、ちゃんとコミュニケーションを取っていこうと、父親にも歩み寄るようになったのは。

　あのとき先生に出会わなければ、ポジティブに切りかえられなかった。だから今、私が子供たちに接するときも、そんな存在になれれば、という気持ちが強いです。

　理事を務めるNPO法人Winkは、一人親家庭のサポートをしています。親の支援と子供のケアの両面を支える形になっていて、私は子供のサポートのために入りました。一人親家庭の支援というと、どうしても親の方に片寄りがちで、子供も大変なのだということはあまり認知されていないんです。

　最初は、離婚家庭で育った子供たちに取材に行き、ブログで紹介していました。それが本になり、今では講演活動や家庭教師派遣も始めています。取材する中で、親子の時間がなかなか取れなくて、もっとお母さんと遊びたかった、という声が聞かれたので、自転車の乗り方を教えたり、キャッチボールをする、という家庭教師なんです。

　講演会には親御さんが来られることが多いですね。子供の生の声が聞きたい、と。例えば離婚の理由が借金や浮気だった場合、親は「相手の悪口になる」と隠す人も多いですが、私たち子供の立場から言うと、自分の父、あるいは母がどんな人か、過剰に美化しないで知れるので、正直に教えてほしいんです。子供と親が直接言えないことを伝える、それが「Wink」での活動です。

　アンファンパレットは今年の1月に発足した時点では「アンファン宣言」＝子供からの発言でした。私たちはあくまでも一人親家庭に育った子供の立場、でも、そこから発言することって、今までなかったんです。親が代弁することはあっても直接発言することはなかった。それを「私たちが子供の目線、子供の立場で発言していくよ！」という気持ちを込めてつけた名前です。もともとその時点では塾は別の名前だったものを、11月に統合させて、アンファンパレットという任意団体としてやっていくことにしました。

　塾を継続することはもちろんですが、私たちの一番大きな夢は「すべての子供たちが幸せに過ごせる社会」。どんな環境にも影響されず、子供たちが自分の人生は幸せだなと思えるような社会にしたい。私たちも一人親家庭という面から、アプローチしていきたいと思います。