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本サイトは、平成22年・23年の作成当時の内容です。

新しい形の農業を実行して、
たくさんの人を 里山に呼び込みたい。農業は面白い!

豊田由美(とよだ・ゆみ)

豊田由美(とよだ・ゆみ)



「ちゃの生」主宰


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スロウなまいにち

両親の他界をきっかけに農業を始める

 30歳のとき母がガンになり、食事が体を作ることを知りました。「子供の食生活をしっかりしなさい」と病んだ母に言われ、当時住んでいた浜松でママ友達と家庭菜園を始めました。3年経ったら1反もの畑を耕していました。きっかけは、2004年ごろ、農業体験を呼びかけたら40人もの人が集まってきてくれて、びっくりしましたよ。農業体験をしている農家がまだなかったので、はしりですね。

 そのうちに母が亡くなり、追うように父も亡くなりました。両親は10年以上前、まだ誰もブルーベリー狩りを言わないころから、お茶の代替作物としてブルーベリーを植えていました。「来年はブルーベリー狩りができるね」というときに、父が亡くなりましたので、親の夢を繋げていきたいと思いました。残念の一言で終わらせたくなかったから、じゃ、私が継ごうと戻ってきました。

 2人の死をみて、「人生一度きり」と感じました。死んだらそこで終わりですよね。30代前半で将来に対して迷い、もっと違うことがあってもいいのではないかと思い始めていたときだったので、1つのチャンスだと捉えました。人生一度きりだ、モヤモヤしているよりやってみよう、と。後悔して生きたくない、という思いもありました。

 私は農業を勉強していませんので、何ができるのだろう。浜松で体験農業をしていたから、とりあえず食農体験のブルーベリー狩りをしたら、100人ほど来てくれました。富士市からは農業体験をしないかと話があって、行政が協力してくれるのならこれはチャンスだ、と思いましたね。3カ月くらいかけて、大根を育てて沢庵を作るまでの講座を行ったら、大好評でした。

 私は素人で農業ができないので、農業をやりたい人と一緒に畑で体験型農業をすれば効率がいいのです。後継者問題も、会社員の人が継いでも、外から人を呼び込めば畑はいくらでも生かすことができます。しかし、今がんばって農業をしている人が70代くらいですから、あと5,6年もすれば後継者問題で遊休農地を手放す人が増えます。今のうちに、農業体験をカテゴリーに農地を活用させる方法を見いだすことが目標です。

農業を知ってもらうための、さまざまな試み

 農家は今まで、育てる楽しさや食べるものを育てているところなどを、見せてこなかったですね。「うちの畑に入るな」と管理をして、一般の人にどんな育て方をしているのかあまり公開しなかった。例えば、カボチャが食べられるまでには3~4カ月もかかります。種を蒔いて、草を取ったり肥料をやったり、決してほったらかしではありません。人手がかかっています。農業体験をした人は、昨日蒔いて今日食べるのではないことを、知っています。だから、農業体験などをして農家も門を開いて見せないと、後継者は育たないだろうし、農業に興味を持つ人もいなくなると思います。

 うちには地域の中学生が農業体験しにやって来ますので、農業の現実や将来のことを話し、農業の未来について考えてもらっています。これからは、実際に畑仕事をしていた地域のおじいちゃんやおばあちゃんに、サポートしてもらうことも考えています。

 今年の2月、生前に母が2年間開いていた茶畑レストラン「ちゃの生」(ちゃのき)を、オープンさせました。「田舎時間」というイベントを年4回開催します。木工工作・雑貨屋・カラーセラピーなど農業とは関係のないジャンルの人と手を組んでイベントしたら、すごくたくさんの人が来ました。里山の風景を楽しみながら、農業や自然を考える機会になってくれればと開いています。

「ちゃの生」も「田舎時間」も直接の農業体験ではありませんが、ここを知って私を知ってもらった上で、農業体験をしてくださるようになるといいなあと、考えています。

 そしてもう1つ、最近はお茶が売れなくなっています。このあたりは、牧之原などと比べると摘み取り時期が1カ月も後なので、茶葉は安く買い叩かれます。何とかしなければと考えていたとき、この辺は茶の新芽を天ぷらにして食べるのに、それを食べられる飲食店がないことに気がつきました。そこで、食べる茶葉「め茶美味!」を2009年7月に商品化しました。新芽を蒸してから冷凍して、パックに詰めてレストランに卸しています。これは野菜としての茶葉なので、価値があります。静岡の地場産品としても売れると評判がいいですよ。大葉の天ぷらをこの茶葉に替えた店もあります。

 障害のある方に何か仕事を提供できればと、いつも父が言っていましたので、お手伝いしてもらう方もなるべく障害者にお願いしています。農業ってすることがいっぱいあります。「ちゃの生」では、ブルーベリーや新茶の収穫作業、加工やパック詰めをしてもらっています。

さまざまな人に土と触れ合ってもらいたい

 将来は、地域に住む団塊の世代の方にもお手伝いをしてほしいです。そういう人と密につきあうと、いろいろなことが見えてきそうです。農業ができなくても、スタッフとして関わりながら人とふれあうことが好きな人が増えてほしいですね。そういう人が私には必要です。また、土地はないけど農業をやってみたいと思っている新規就農者にも、入ってもらいたいです。来たお客さんにどれだけ感動を与えられるかが、大切です。ただ畑を見せるだけではなく、どれだけ驚きを持って帰ってもらえるかが、1つの仕掛けかなと思っています。

 いずれにしても、私1人ではできないので、サポートしてくれるスタッフやグループがほしいですね。

 そして、次世代に伝えることもしていきたいので、今後は、子供の体験に力をいれます。夏は寺子屋のようなことをして、子供たちと2泊か3泊で農業体験をしようと思っています。体をしっかりと動かし、汗をたっぷりかいて心地いい疲れを感じることは大事です。小学高学年から中学生を対象に絞った異年代交流をするという体験も、今の子供たちにはプラスになります。子供のころから、農業を身近なものとして感じていてほしいのです。

「開かれる農業」「新しい農業」を、標高450mの富士市大渕地区から発信し、伝えていきたいと思います。

取材日:2010.11



静岡県富士市生まれ 富士市在住


【 略 歴 】

     
2002 浜松で家庭菜園を開始
2007 浜松と実家の畑で食農体験講座を開講
2008 実家で農業を始めようと決意
「ちゃの生」活動スタート
2009 食べる茶葉「め茶美味!」開発、プロデュース
茶畑レストラン開店
2010 朝日テレビ「人生の楽園」出演
男女共同参画チャレンジ部門で知事褒章受賞

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